1: 名無しで叶える物語(公衆) 2018/05/06(日) 14:17:10.70 ID:Nyfo/1nj
「♪フフンフ フンフン フフッフ フッフフ~」ジャーー キュッキュ

「…よし。お皿洗い完了、今日もピカピカです」

「姉さま、姉さま!」バタバタ

「どうかしましたか、理亞。はしたないですよ」フキフキ

「ご、ごめんなさい…あのね姉さま。さっきから変な鳴り方してる」スッ

「あ! また私の部屋に入りましたね? だめだめですよ、理亞」メッ

「うう…ごめんなさい。ずっと変な風に鳴ってたから、気になっちゃって」

「もう、仕方ありませんね。貸してもらえますか?」

「うん」ハイ

「…うわ、なにこれ?!」

「どうしたの?」

「着信が26件も入っているんです。全部同じ番号から…きゃっ」ブブ… ピタッ

「しかもワン切り?!」

「さっきからずっとそうだよ。相当悪質な嫌がらせだね…」

「次は必ず出てみせます。それでお説教してあげましょう」

「大丈夫? 姉さま。危険な相手じゃないかな」オロオロ

「大丈夫ですよ。言ってごらんなさい、理亞。私は誰ですか?」

「鹿角…聖良!」パアアッ

「そういうことです。…さあ、いつでも掛けてきなさい」

2: 名無しで叶える物語(公衆) 2018/05/06(日) 14:18:22.08 ID:Nyfo/1nj
……ブ「はいもしもしっ! さっきからなんの用ですか?! こちらにはあなたの電話番号が表示されているんですからね、このまま警察に持っていったっていいんですよ。
いえ、あなたがなにを言おうとそうしますからね。今のうちに大人しく名前と住所を白状しておくことをお勧めしますよ」

『………………っ』

「へ~え、だんまりですか。いい度胸ですね。温情判決は必要ないというわけですか」

「そうだ! 姉さまにいたずらするなんて!」

『………あ、あの…』ボソ

「はい。聞いています。もっと大きな声を出せないんですか?」

『と、突然電話しちゃったのは謝るわ。謝り、ます…だから、警察とかはやめてください…』

「はあ? まだご自分の立場がわかっていないようですね。いいですか、どこの誰とも知らないあなたがどうやってこの電話番号を入手したかは知りませんが、それはれっきとした犯罪なんですよ。
しかもこんな風に何度も掛けてきて、気の弱い人ならトラウマになってもおかしくないんですからね」

「そうだ! 私ならトラウマだよ!」

『え? あ、えっと…聞いていませんか…?』

「は? なにをですか?」

『番号は、すみません、うちのメンバーから聞いちゃったんですけど…今から聖良さんに電話するって、一時間くらい前に理亞に連絡しておいた…はず、なんです…けど』

「…………へ?」キッ

「やっちゃえ姉さ… ?!」ビクッ

「な、なに? 姉さま」オロ…

「ちょ、ちょっと待ってください。あなた、一体誰なんですか?」

『あの、私……Aqoursの、津島善子です…と、言います…』

「…………えーーーーーーーーっ?!!」

***

3: 名無しで叶える物語(公衆) 2018/05/06(日) 14:18:58.28 ID:Nyfo/1nj
***

「すみません、津島さん。少しだけ待っていてもらえますか」

『は、はい』

「理亞」スッ

「どうしたの? 姉さま。相手は誰だったの?! 津島って奴なの?」

「今すぐ自分のケータイを持ってきなさい」

「え?」

「早く!」

「は、はいっ」タタタ…

4: 名無しで叶える物語(公衆) 2018/05/06(日) 14:19:43.72 ID:Nyfo/1nj
「持ってきたよ。あれ? なにか来てるみたい…津島善子からだ」

「それですよ! すぐにメッセージを確認して!」

「そ、それ? これ? えっと、『今から聖良さんに電話するって伝えておいてくれるかしら』だって。どうする? 姉さま。それどころじゃないって返しておく?」

「…理亞、私がお皿洗いしているとき、部屋でなにをしていましたか?」

「え? 確か、四つならべるゲームしてた…けど」

「………はあ。もしもし、津島さん」

『は、はい』

「本当に申し訳ありません。うちの理亞がメッセージを見落としていて、私もケータイを部屋に置きっ放しにしていたもので、着信があったことに気付いていなかったんです」

「私が見落としてて?」キョトン

『あ、ああ…そうなの…』

「だから、さっきは着信の多さにびっくりしてしまって、失礼なことを言ってしまいました。改めてお詫びを…」

「…………??」←理亞

『あ、いえ、いいんです。大丈夫です。ちょっと驚いたけど…』

「理亞のことは後でよく叱っておきますので」

「っ?!」←理亞

5: 名無しで叶える物語(公衆) 2018/05/06(日) 14:20:40.85 ID:Nyfo/1nj
「ところで、どうかなさいましたか? あなたから私に直接ご連絡くださるなんて、初めてのことですよね」

『はい。突然ご連絡を申し上げたことに加えて、さらに突然の申し出で恐縮なのですが…ご相談、したいことが…あるんです』←ちょっと落ち着いてきた

「相談…ですか。構いませんよ。それじゃ部屋を移動するので、このまま少しだけ待っていてもらえますか」

『はい』

「理亞。私は部屋に引っ込みますね」

「ね、姉さま? 電話の相手は…私は…」

「………相手は津島さんですよ。Aqoursの。それじゃ、出るときは電気を消してくださいね」


スッ スタスタスタ…


(どうしたんだろ、姉さまなんだか冷たかった…)

(津島善子? まだ返してないのに電話してきたの?)

(…………………………)

(………っ!!!) ハッ!

***

6: 名無しで叶える物語(公衆) 2018/05/06(日) 14:21:34.58 ID:Nyfo/1nj
***

「お待たせしました」

『いえ。こちらこそ、急にご連絡してしまって…ご都合は悪くありませんか?』

「私は大丈夫ですよ。ですが、二つほど訊いてもよいですか?」

『なんですか?』

「20回以上着信があったのですが、あれは全てワン切りだったんですか?」

『20回?! えっと…たぶん、そうだと…。ワン切りしてるつもりはなかったんです。ただその、掛けては切って掛けては切ってとしていて、…てっきり掛かる前に切れてるものだと思っていました…』

「それはその、どういう意図で…」

『掛けようとは決めたものの、いざ通話が繋がることを考えると、こ…怖くて…』

「……びびった結果でしたか」

『びっ………まあ、結果的には…』ゴニョ

(そういえば津島さんはそういうタイプだって聞いたな)

「それはわかりました。もう一ついいですか?」

『はい』

「なぜ、相談相手に私を?」

『………それは』

「ご相談を受けるのを断ろうというつもりではありませんが、あなたにはたくさん仲間がいるでしょう。年上に相談したかったのだとしても、たくさん。それがなぜ私を選んだのですか?」

7: 名無しで叶える物語(公衆) 2018/05/06(日) 14:22:24.05 ID:Nyfo/1nj
『…ご相談したいことというのが、その年上の仲間たちのことだから、です』

「なるほど」

(人間関係か…わざわざ別グループの私に連絡してまで相談したいだなんて、一体何事なんだろう…)

「わかりました。メンバー間の関係に関する問題は、些細なものでも放っておくと致命的になりかねませんからね。私でよければ力になります」

『あ…ありがとうございます!』

「さっそく本題に入りますが、なにかあったのですか?」

『具体的になにかあった…というわけでは、ないのですが…むしろなにもなかったといいますか…』

「いいですよ、ゆっくりで」

(なにもなかった……まさか、無視されているとか? あの人たちに限ってそんなことはないと思いたいけど)

『あの、』

「はい」

『先輩に、どう接したらいいのかわからないんです』

「はい。…はい? それはどういう…」

『今まで、こう…あの人たちみたいな、親しい年上の相手っていたことがなくて。部活とかもしてなかったので…だから、どう接したらいいのか…わからなくて…』

8: 名無しで叶える物語(公衆) 2018/05/06(日) 14:23:20.96 ID:Nyfo/1nj
「つ、津島さんは…Aqoursに入ってどのくらいになるんでしたっけ?」

『え? えーと…八ヶ月、くらいですけど…』

(八ヶ月?! その間、ずっとこんな悩みを抱えてグループの中にいたっていうの?!)

『マリ…小原先輩とリ、桜内…先輩…は、同じユニットを組んでて、少し砕けた接し方ができるんですけど。他の先輩は、どんな風に接したらいいのか…』

(ど、どうすれば…。この相談を私にするのはどう考えても間違っている。もっとグループの内情をよく知る、それこそ小原さんと桜内さんに相談するのがベターだったはず…)

『あの、すみません。グループの中の話を他の人に相談するなんて、自分でもどうかとは思ったのですが、その…』

(…だからといって、どうするつもりだ? 私。『それは私が聞くべき話じゃない』って突き放す? 20回もワン切りしてしまうほど緊張しながらも私を頼って相談してくれた津島さんを?)

『ごめんなさい、やっぱり…リリーにでも相談してみるので、今回のことは忘れていただいて大丈夫です』

(……まさか。)

『遅い時間に失礼しました。またご指導を賜れれば、』

「待ってください」

『は、はい…』

9: 名無しで叶える物語(公衆) 2018/05/06(日) 14:24:05.33 ID:Nyfo/1nj
「すみません。お話を色々と考えていて、つい黙り込んでしまいました。ですがもう大丈夫ですよ」

『え、その、それじゃあ』

「はい。そのご相談は、私が責任を持って受けましょう」

『ほ、ほんとですか…! よかった…』

(よほど緊張したんだろうな…いや、今もしてるのか)

「まずは、私に対する緊張を解いてもらいましょう。でなければ、本音の相談もしづらいでしょう」

『そ、それは…具体的にどういう…』

「まず、名前で呼んでもいいですか? ええと…善子さん」

『っ?! ドン ガタン ガシャンッ』

「え?! 善子さん?! 大丈夫ですか?!」

『あ、だ、ダイジョブです…あたた…』

「ごめんなさい。いきなりで驚かせてしまいましたか」

『びっくりはしました…』

「嫌ですか?」

『嫌、とかでは…別に…ないですけど…』

「けど?」

『私、その…善子って名前、あの…』

「………?」

(名前は間違ってないよね? だとしたらなんだろう。…………あ)

「…ヨハネさん? ですか?」

『っ?! な、なぜその名を?!』

10: 名無しで叶える物語(公衆) 2018/05/06(日) 14:24:58.99 ID:Nyfo/1nj
「あの、理亞があれを…放送を観てたので、一緒に観たことがあって」

『っっ??!! ドタン ガッ ギィィィ ガッシャン』

「大丈夫ですか?!」

『なぜ理亞があれを…』

「え? ご存知ないんですか?」

『え?』

「Aqoursのホームページに、放送のリンクが貼ってありますよ。過去の放送とか、ヨハネさまのページへのリンクとか」

『んなあああああっ?! ちょっ待っカタカタカタカタカタカタ うわあほんとだ! 誰よこんなことしたの! マリか?! マリねきっと!』

「本人に無許可だったとは」

『聞いてないわよこんなの!! これじゃ私だけ晒し者じゃないの、ばかばか! ばかマリー!』

「…ふふ」

『あっ?! ごめんなさっ、電話、忘れてたっ』

「いえ、謝らないでください。そのくらい素でいてくださったほうが、相談にはいいでしょうから」

『うう…笑わないんですか?』

「笑う? なにをです?」

『堕天使とか、高校生にもなって、こんなの…』

「笑うなんてとんでもない。個性あってこそのスクールアイドル。それが作ったキャラでなく素なのであれば、望むべくもないほどの資質です。羨ましいとすら思いますよ」

『羨ましい…』

11: 名無しで叶える物語(公衆) 2018/05/06(日) 14:25:43.88 ID:Nyfo/1nj
「ところで、結局どちらで呼べばいいですか? 善子さんか、ヨハネさんか」

『あ、えと、善子…で、お願いします』

「わかりました。善子さんも、私のことは気軽に名前で呼んでくださいね」

『せ、聖良…さん』

「はい。聖良です。…なんて」

『ふふ…ふへ』

「ああ。あと、Aqoursのメンバーを呼ぶのも、いつも通りに呼んでいただいて構いませんよ。いちいち先輩なんて言い換えなくて」

『ま、マリとかリリーとか?』

「はい。よほど奇抜なあだ名が付いていたりしないのなら、わかるはずですから」

『…わかめセンパイ』

「…松浦さん、ですか?」

『へえ、すごい。メンバーのプロフィールなんか見てるんですか?』

「そうですね。ライバルですから。ホームページにも定期的に訪れて、新しい情報がないか確認していますよ」

『さすがですね…』

「ところで、松浦さんのことは『わかめセンパイ』と呼んでいるんですか?」

『い、いやまさか! ふとした思い付きです!』

12: 名無しで叶える物語(公衆) 2018/05/06(日) 14:26:38.73 ID:Nyfo/1nj
「ふふ…そうですよね。そんな呼び方をしているんだったら、どう接すればいいかなんて悩むはずありませんもんね」

『そうですね…』

「参考までに、鞠莉さんと桜内さん以外の上級生は、なんと呼んでいるのですか?」

『えっと、ダイヤは…ダイヤで、センパイ…果南センパイはセンパイで、千歌さんと、あと…曜さん、って』

「果南さんだけ極端に距離がありますね」

『え?! いや、そんなことないつもりなんですけど…ダイヤのこともセンパイのことも、そもそもあんまり呼ばないし…』

「でも、他の三人は名前で呼んでいるんですね。だったらそこまで付き合いに問題があるようにも思えませんが」

『呼ぶのは、なんか、みんな名前で呼び合ってるから。私だけ苗字呼びとかしたら、和を乱すかなって…』

「ふむ…」

(そういう配慮はできるのか。ルビィちゃんも善子さんは頼りになると言っていたし、本人も歩み寄りたいと思ってる。それなら、そんなに難しいことでもなさそうだな)

「善子さん、時間は平気ですか?」

『わ、私は平気です』

「それなら、一人ずつ普段の様子を聞かせてください。一概に接し方を考えるといっても、相手によりますからね。それじゃ、まずはリーダーの千歌さんから」

『は、はいっ。千歌さんは、その、初めて私と会ったときに…』

***

13: 名無しで叶える物語(公衆) 2018/05/06(日) 14:27:17.35 ID:Nyfo/1nj
***

『…って、感じです』

「なるほど、だいたいわかりました」

『把握能力高いですね』

「それでは、まずは千歌さんからいきましょう」

『まずは?』

「はい。全員と親しくなることが目標ではありますが、同時にというわけにはいきませんからね。一人ずつ、確実に距離を縮めていくことにしましょう」

『わ、わかりました。どうして最初は千歌さんなんですか?』

「千歌さんはAqoursのリーダーですからね。良くも悪くもグループ全体に強い影響力があります。であれば、真っ先に千歌さんとの関係を良好にしておいて損はないでしょう」

『なんだか、国獲りゲームでもしてるみたい』

「ふふ…言い得て妙ですね。さすがです。あえて偽悪的な言い方をすれば、これは善子さんとAqoursの侵国戦です。とはいえAqoursから善子さん側に攻め入ってくることはない、善子さんが勝つまで続けられるゲームですけどね」

『ほんとに偽悪的な物言いですね』

14: 名無しで叶える物語(公衆) 2018/05/06(日) 14:28:15.97 ID:Nyfo/1nj
「そのくらい余裕をもって臨んでほしいということです。人と人との関わりは、それだけで日々戦っているようなものですが、仲間と交流を深めようという気持ちが悪いことは絶対にありませんから。何事も、やるなら楽しく。これは私のモットーです」

『……よし、わかりました! 元々ご相談しているわけですもんね。聖良さんのモットーを受け継いで、楽しく乗り切ってみせます』

「その意気ですよ、善子さん。具体的な話ですが、まず初めに千歌さんを選んだのは、さきほど伝えたようなリーダーだからという理由以前に、最も手早いからでもあります」

『攻略しやすいってことですか? …あっ、攻略って言っちゃった』

「攻略…いいですね、その表現を採用することにしましょう」

『聖良さん結構ノリノリですか?』

「楽しむのがモットーですから」

『見習います』

「攻略しやすいというのは、実にしっくり来る表現です。まさにその通り。
…というか、身も蓋もない言い方をすれば、躍起になっているのは善子さんだけで、千歌さんたちはそもそも仲良くするつもりというか、既に仲が良いつもりでしょうから、最初から攻略し終わっているとも言えますが」

『えっ、なにその手のひら返し…私の悩みは一体…』

15: 名無しで叶える物語(公衆) 2018/05/06(日) 14:29:08.56 ID:Nyfo/1nj
「ですから、ここでの攻略とは、善子さんと相手の関係をどうこうするというよりも、善子さんが相手に対して距離を感じずに接することができるようになることを言います」

『な、なるほど』

「例えば、善子さんが関係を悩んでいる相手にルビィちゃんと国木田さんは含まれていませんよね」

『国木田さん? ああ、ずら丸ね。えーと、はい、そうですね』

「それはなぜでしょう?」

『なぜって、うーん…あの子たちは同級生だし、最初から対等っていうか…ずら丸は一応昔馴染みだし、ルビィも私の堕天使とか受け入れてくれてて、二人とも信頼できるっていうか…』

「そう、答えは今善子さんが言った通りです」

『え?』

「対等、信頼。それこそ人間関係で最も重要なことです。対等な相手、信頼できる相手であれば、意識しなくてもこちらから相手に向ける態度は決まるものです。善子さんがその二人に自然に接することができるようにね」

『…そうなると、私が千歌さんたちを信頼してないみたいに…』

「大雑把に言うとそういうことですね。こんな言い方をすると心苦しく感じるかと思いますが、接し方に悩んでいる事実こそがその証明です」

『………………』

「では、鞠莉さんと桜内さんはどうでしょう。こちらの二人も、接し方で悩んではいないのですよね」

16: 名無しで叶える物語(公衆) 2018/05/06(日) 14:30:20.22 ID:Nyfo/1nj
『…まあ、他の上級生よりは接しやすいから…』

「それはどうして?」

『…マリもリリーも、私のこと軽んじたりしないで接してくれるし。素で接してくれてるのがわかるっていうか』

「他の上級生は、善子さんを軽んじたり繕って接したりしていると」

『え?! 違う、そういうわけじゃ…』

「ふふ、わかっていますよ。私も、千歌さんたちがそんな風にしているとは感じません」

『も、もう…いちいち言い方が意地悪なんだから…』

「すみません、癖で。つまり、相手から善子さんに対しては、鞠莉さんや桜内さんも、千歌さんやダイヤさんも、同じなんです。違うのは、善子さんの受け取り方」

『私の受け取り方…』

「千歌さんもダイヤさんも善子さんに素で接しているけれど、善子さんがそれを感じ取ることができていない。だから、どことなく相手がなにを考えているのか、自分をどう思っているのかがわからず、距離感を掴みあぐねている」

『…やっぱり、私の問題…なのよね』

「それはそうですが、それはイコール善子さんが悪いということとは違いますよ。ずばり答えを言ってしまうと、原因は善子さんと千歌さんたちの接する機会が少ないこと。ただそれだけです」

『それ、だけ?』

「だけです。考えてみてください。練習以外の時間、善子さんは誰と一緒にいますか?」

『ルビィとずら丸…』

「では、練習のときは?」

『だいたいルビィとずら丸…ユニット練習のときは、マリとリリー…あっ』

「わかりましたか? つまり、善子さんは千歌さん、ダイヤさん、果南さん、渡辺さんと過ごす時間が、他の四人と比べて少ない。そこで関係性にひらきが出ているんです」

『そんなに単純なことだったのね…』

(もちろん、そんなに単純なことではありませんけどね。あまり難しいことだと意識させてしまうのは得策じゃない)

17: 名無しで叶える物語(公衆) 2018/05/06(日) 14:31:03.33 ID:Nyfo/1nj
『あ、でも練習終わりの帰りのバスはいつも曜さんと一緒だ…』

「え?!」

(後出ししないでほしい!!)

「渡辺さん…は、キャラが違いすぎるからです」

『キャラが?』

「渡辺さんはAqoursでも一番の元気キャラですからね。自分とキャラが違いすぎて、親近感が湧きづらいんです」

『そう…いう、ことか…』

(納得してくれた…)

「つ、つまり、解決策は簡単です。一緒に過ごす時間を増やせばいい。そうすることで今まで見えていなかった面が見えて、自ずと相手を信頼できるようになるはずですから」

『わ、わかりました…やってみます』

「応援していますよ。明日以降でも、迷ったり悩んだりしたらまたいつでも連絡してください。…あ、私の連絡先を教えておきましょうか」

『あ、ありがとうございますっ!』

(ふふ…真っ直ぐで真面目で、可愛いなあ)

『あ…ところで、曜さんはどうすれば…』

「それは追い追い考えます」

***

18: 名無しで叶える物語(公衆) 2018/05/06(日) 14:31:44.45 ID:Nyfo/1nj
***

「………………」ジッ


ーーよーちゃんお水ちょーだーい。

ーーちかちゃん自分のは?

ーー飲んじゃった!

ーーあげなくていいわよ、曜ちゃん。自分で管理できないほうが悪いわ。

ーーひどいよ梨子ちゃん! チカが脱水症状で倒れてもいーの?!

ーーなくなったなら自分で自販機に行きなさいって言ってるの!


「………………」ムム…

「なーに見てるずら。善子ちゃん」ヒョコッ

「ずら丸。別に、なんでもないわよ」プイッ

「…千歌ちゃんがどうかしたの?」

「でえええええっ?! な、なんで千歌さんだって…」

「千歌ちゃんのほうじっと見詰めてたら、そりゃ誰にだってわかるよ」

「よ、曜さんかもしれないじゃない!」

「少なくとも梨子さんではないんだね」ニコッ

「う…っ、この…」//

「善子ちゃんはわかりやすいずら。で、どっち?」

「…はあ。どっちも。どっちかというと、今日は千歌さん」

19: 名無しで叶える物語(公衆) 2018/05/06(日) 14:32:30.27 ID:Nyfo/1nj
「明日は曜さんなの?」

「明日には曜さんになればいいんだけど」

「?」

「…ずら丸。あんた、千歌さんと仲良い?」

「は? 相変わらず意味不明ずら。…目上の相手に対して自分で『仲が良い』って言うのもどうかとは思うけど、悪くはないよ。全然」

「全然」

「全然。言っちゃっていいなら、仲良いと思うよ。千歌ちゃん優しいし」

「優しいわよね…」

「あ~、そういうこと」

「は? なによ?」

「善子ちゃん、千歌ちゃんと仲良くなりたいんだ」

「んなあっ?!」

「千歌ちゃんだけじゃなくて、曜さんもか」

「んななああっっ??!!」

「オッケーオッケー、そういうことなら話は早いずら」スタスタ

「ちょっ、ちょちょちょっと待っ!!」ガシッ

20: 名無しで叶える物語(公衆) 2018/05/06(日) 14:33:33.12 ID:Nyfo/1nj
「なに?」

「なにはこっちの台詞よ! なにするつもり?!」

「誰かと仲良くなりたいなら、眺めてるだけじゃ進展しないよ。お話しして初めて人と人は繋がれるずら」

「違う! 違くないけど違うの! とりあえず待って!」

「もー…どうしたの。休憩終わっちゃうよ」

「話すだけじゃだめなのよ。それを昨日知ったの」

「昨日?」

「細かいことは飛ばすけど、とにかく、話すだけじゃなくて、あの人たちと同じ時間を過ごしたいの。きちんと!」

「きちんと、同じ時間を…」

「そうなの。それはこのヨハネが自分でしっかりやってみせるから、貴女の手出しは無用ですーーって、あれ?」


ーー果南ちゃーん。提案があるずらー。

ーーおー、どうしたのマル。


「?! あいつなにやってんのよ…?!」

***

21: 名無しで叶える物語(公衆) 2018/05/06(日) 14:37:35.87 ID:Nyfo/1nj
***

「………………?! ?!」ダラダラ

「チカ!」

「曜!」

「ルビィ!」

「「「We are CYaRon!」」」デデーン

「よろしくね、善子ちゃん!」フウッ

「あ、うん、えっと、ヨロシクオナシャス…」

(なになになに?! ナニコレどういう状況なわけ?!)

「よしこちゃん」コソ

「る、ルビィ…これは?! なに?!」コソ

「はなまるちゃんの提案でね、他のユニットの練習に混じってみようってことになったの。今日はギルキスを分けてCYaRon!とAZALEAに。で、よしこちゃんはこっちだよ」コソ

「あんのずら丸ぅ…っ! ……」チラッ

「 」ニッコニコ

「…あんた、ずら丸からなんか聞いたわね?」

「よしこちゃん、千歌ちゃんと曜ちゃんと仲良しさんになりたいんだよね!」

「おっ! きな! こえ! でっ、言うなああああああ!!」

「ピギィィィィィッ!!」


(よしよし、あっちはルビィちゃんが上手くやってくれそうずら)

***

22: 名無しで叶える物語(公衆) 2018/05/06(日) 14:38:27.03 ID:Nyfo/1nj
***

「人に見られてると思うと緊張しちゃうねー」

「ステージだとそんなことないのにね」

「善子ちゃん善子ちゃん! CYaRon!のポーズ一緒にやろ!」

「え?! そういう主旨の企画じゃないでしょ?! 練習の様子を見るのが…」

「いーからいーから。こんな機会めったにないし! ね、やろ!」

「え、あ、わかったから。やるから…」

「善子ちゃんどこがいいかな?」

「うーん、響き的に…ルビィちゃんの後かな?」

「確かに、三文字続きでいいかもね!」

「いくよー」

「は?!」

「チカ!」

「曜!」

「ルビィ!」

「は、早っ…よよよヨハネ!」

「「「We are CYaRon!」」」デデーン

「…だめだよ~、善子ちゃんも最後言うんだよ」

「始めるのが突然すぎるのよ! 名乗りが間に合っただけでも誉めてよねっ!」

23: 名無しで叶える物語(公衆) 2018/05/06(日) 14:39:24.69 ID:Nyfo/1nj
「よーし、じゃあジャンプしよっかー!」

「「おーーっ!」」

「は? ジャンプ?」

「せーのっ、ジャンプっ!」ピョンッ

「ジャンプ!」「じゃーんぷ!」ピョンッ

「な、なに?! なにしてるの?!」

「だからー、ジャンプするんだってば。ほら善子ちゃんも! ジャーンプっ!」ピョンッ

「???」ピョン…

「元気が足りないよー、もっかい! ジャンプ!」ピョンッ

「ジャーンプ!」「じゃんぷ~っ!」ピョンッ

「も、も~! なんなのよ~~~っ!」ピョンッ

「CYaRon!は元気なのがウリだからね!」ハッハッハ

「元気を示すにはジャンプが一番だからね!」ハッハッハ

「意味わかんないし! 私CYaRon!じゃないし!」

「よしこちゃん」ポン

「ルビィ…」

「この人たちが意気投合したら、抗ってもむだだよ…」フルフル

「る、ルビィ……」

24: 名無しで叶える物語(公衆) 2018/05/06(日) 14:40:21.25 ID:Nyfo/1nj
「ねね、よーちゃん。CYaRon!のダンスに堕天使の動きを入れてみたらどうかな!」

「おっ、ちかちゃんナイスアイディア!」

「善子ちゃーん! 堕天使やるから見ててねー!」

「は?」

「よしこちゃん」ポン… フルフル

「元気こそ全て… Guilty CYaRon!」フッ

「いや、全く元気そうに見えないんだけど」

「みかん食べたい… Guilty CYaRon!」フッ

「完全にただの欲望じゃないの」ハイハイ ギルティギルティ

「おねいちゃあだいすき… Guilty CYaRon!」ピッ

「あんただけ完全に路線違うんだけど」

「善子ちゃん! 善子ちゃん、早く!」

「え?! これ私もやるの?!」

「当然でしょ、ほらほら!」

「な、なんなのよ…… …」ギラリ

「内浦に舞う漆黒の翼… Guilty CYaRon!」シャキーン

「ちょっと堕天の角度甘かったかなあ?」

「えー、よーちゃん指先ぴしっとしてたし格好よかったよ」

「ちかちゃんも瞳が燃えてたよ! ぞくぞくした!」

「やらせるんならちゃんと見なさいよ!!」ウガーーッ!


「………もうっ。…ふふ」

***

25: 名無しで叶える物語(公衆) 2018/05/06(日) 14:41:17.41 ID:Nyfo/1nj
***

「はーい、集合~」パンパン

「練習を見せたほうも見たほうも、なにか掴めたかな。いい試みだったと思うし、明日からも最後に少し時間取って続けてみよっか。それじゃ、各自クールダウンして解散~」


ーーお疲れ様でしたー。


「…………」

「よーしこちゃんっ」ドンッ

「んにゃ…あ! ずら丸! あんたの差し金ね!」

「差し金とは言われようずら」

「よしこちゃん、はなまるちゃん。おつかれさま」トテテ

「ルビィもよ!」キッ

「ぴ?!」

「二人して、私をおもちゃにしたかっただけでしょ」プン

「そ、そんなことないよ。ルビィたち、よしこちゃんを応援しようと思って…」

「まあ半分くらいは面白がってやったけど」

「はなまるちゃん?!」

「でも善子ちゃんが言った通り、同じ時間を過ごせたでしょ」

「なっ! 今の時間なんか練習するでもなくふざけ合ってただけで、」

「じゃあ善子ちゃんの言う『同じ時間を過ごす』って、どういうことなの? 一対一でお茶でも飲むの?」

「それは…」

26: 名無しで叶える物語(公衆) 2018/05/06(日) 14:42:26.89 ID:Nyfo/1nj
「同じ時間を過ごすっていうのは、単に同じ空間で過ごすっていうのとは違うずら。なにか同じ目標に向けて一緒に努力したり、本音で語り合ったり、なんにも考えずにありのままでふざけ合ったり、そういう風に過ごすことを言うんだよ」

「………」

「まるは、今善子ちゃんが過ごした『ふざけ合ってただけ』の時間は、それに該当すると思うけどな」

「る、ルビィもね…そう思う、よ。難しいことはよくわかんないけど、ルビィ千歌ちゃんも曜ちゃんもだいすきで、もちろん他のみんなもすきだけど、千歌ちゃんたちは年下のルビィにもすっごく優しくて、
ユニットのときも体力ないルビィのこと気遣ってくれるし、あんな風によくふざけてるけど、それもだいすきな時間でね、だからよしこちゃんも一緒にできてよかったし、…あうう」

「ありがとう、ルビィ」ポン

「うゆ…」

「ルビィの言いたいこと、ちゃんと伝わったわ。ずら丸も。むかつくけど、あんたの言うことはいつも正しいのよね」

「むかつくとは心外ずら」

「今日の時間が、私が求めていたものだったってこと、今になってよくわかった。だってね、」

「善子ちゃ~ん! 今日はお疲れ様~!」

「先に下おりてるよー! バスのとこで待ってるねー!」

「私、もうあの人たちのこと、すっごく信頼してるんだもの」

***

27: 名無しで叶える物語(公衆) 2018/05/06(日) 14:43:35.99 ID:Nyfo/1nj
***

『…って感じでした』

「そうですか。首尾は上々、心配いりませんでしたね」

(しれっと曜さんの攻略も終えてる…)

『いえ、聖良さんのおかげです。ありがとうございました』

「ま、まだお礼を言われるには早いでしょう。あと二人、残っていますからね」

『う…そうですね…』

(急にトーンダウンした…)

「ダイヤさんたちも、案外すんなりいくかもしれませんよ」

『だと、いいんですけど…』

「…ダイヤさんたちは、千歌さんたちに感じていた以上に距離を感じますか?」

『正直なところ…。ダイヤもセンパイも、その…なんというか、ちょっと怖くて…』

「ダイヤさんは、まあ…きりっとした方ですしね。果南さんも怖いですか?」

『どっちかというと、むしろセンパイのほうが…』

「おや、それは意外です。気さくな方に見えますが」

28: 名無しで叶える物語(公衆) 2018/05/06(日) 14:44:24.17 ID:Nyfo/1nj
『どうも体育会系な感じで、私と全然タイプが違くて。ノリがよくわからないというか。ダイヤは怒らせなければいいから…』

「ああ、なるほど…善子さんが果南さんに持っているイメージがなんとなくわかりました」

『顔にドッチボールぶつけられたこともあるし…』

「そ、それは不可抗力だったのでは」

『そうだと…思いますけど…』

(結構深刻に引きずってそうだな…)

「では、果南さんはひとまず置いておいて、ダイヤさんを先に攻略することにしましょうか」

『そうですね。そのほうが気が楽です』

「具体的にどうしようかということですが…私が思うに、善子さんから動く必要はないかもしれませんね」

『はい? というのは?』

「今日は国木田さんの計らいで千歌さんたちとの時間が取れたわけですよね」

『ええ、まあ…』

「私が国木田さんなら…」

『?』

***

29: 名無しで叶える物語(公衆) 2018/05/06(日) 14:45:17.78 ID:Nyfo/1nj
***

「さて、今日は善子がAZALEAに来てくれたよ!」

「ようこそ、善子さん」

「いらっしゃい善子ちゃん」

「…………っ!」ダラダラ


ーー私が国木田さんなら、そこまで手回しをしたのであれば、明日も同じようにします。

ーー同じように?

ーーはい。ユニット交換にかこつけて、善子さんが上級生と同じ時間を過ごせるように。明日は、ダイヤさん果南さんと。


(まったくその通りだった…)

「ど、どうして毎回私だけ一人で出張することに…」

「そりゃ、昨日は善子ちゃんだけがCYaRon!に行ったからだよ」

「ず、ら、丸ぅ…っ」ギリリ

「まあまあ。昨日もやる前はそんな気持ちだったはずずら。文句は練習の後に残ってたら聞くよ」しれっ

「よーし、それじゃさっそく始めよっか!」

「はい」「ええ」

(この人たちはいつもどういう風にじゃれ合ってるんだろ…)

30: 名無しで叶える物語(公衆) 2018/05/06(日) 14:46:04.80 ID:Nyfo/1nj
「じゃあまずはトリコリコやるよー。並んで」

「…おや?」

「善子、再生お願いできる?」

「え? あ、はい」カチッ


~♪

シンジテル コトバノマホウ

キミヨイツカトリコニナッテ

イツデモワタシヲミツメテ PLEASE!!

ーーーー、ーーーー♪

ーーーー、ーーーー♪


「…ふうっ」

「どうだった? 善子」

「あ、良かった…と、思う」

「指摘事項などありませんか?」

「そうね…ああ、ラスサビ前の動きが、ダイヤだけ少しテンポが速かったかも…」

「む、そうですか…ありがとうございます。果南さん、花丸さん。ラスサビ前からもう一度やっても?」

「オッケー、やろっか」

「はーい」

「善子さん、また曲の再生と、動きを見てくださいます?」

「え、ええ。もちろん…いくわよ」カチッ


ーーーー、ーーーー♪


(…………あれ??)

31: 名無しで叶える物語(公衆) 2018/05/06(日) 14:46:48.29 ID:Nyfo/1nj
「…うん、ダンスはいい感じ。ただ、マイクなしでこうして聴いてみると、声量にばらつきがあるかも。センパイは気持ち抑えて、ずら丸はもっと張って。ダイヤに合わせるようにしたらいいと思う」

「あちゃあ…やっぱり出し過ぎか。マイクないと思うと、どうしても出さなきゃって気になっちゃうんだよね」

「まるは反対に、マイクの有無を意識するのが苦手だから…気を付けなきゃ」

「それでは、声量はお二人の課題ということで。明日からはそこも気にしていくことにしましょう。私はどの曲もラスサビ前にステップが走りがちになる点を注意しますわ」

「うん! すごく有意義な時間になったね! ありがとう、善子。やっぱり第三者に見てもらうのはいいね」

「そうだね。自分たちじゃ気付けないところに指摘を貰えて助かるずら」

「改めて御礼を申し上げますわ、善子さん」

「「「ありがとうございました」」」

***

32: 名無しで叶える物語(公衆) 2018/05/06(日) 14:47:54.82 ID:Nyfo/1nj
***

「ーーってえ、ガチ練習だったじゃないのよ!!」

「練習の時間なんだから、当たり前ずら」

「私がAZALEAの練習コーチしただけじゃないの!」

「それのなにが不満なの…」

「わ、私はてっきり昨日みたいにダイヤたちともふざけ合うものかと思って…」

「それはユニット特性の違いずら。AZALEAはMC考えるとき以外はだいたいあんな感じで黙々と曲をやるから」

「よしこちゃん、はなまるちゃん。おつかれさま~」トテテ

「あのね、今日は鞠莉ちゃんと梨子ちゃんと一緒でね、五人でCYaRon!のポーズやったんだよ!」

「そっちは相変わらずそんな感じだったのね…」

「よしこちゃんは? おねいちゃあたちと仲良くなれた?」

「どうなのかしら。いつもと違った時間は過ごしたけど…ねえずら丸、どう思う?」

「さあ」

「さあってあんた」

「ダイヤさんも果南ちゃんも、別に今日に限らず善子ちゃんを一人の仲間として信頼してるずら。だから、善子ちゃんが二人をどういう風に見て、接するか。それだけだもん」

「う…」

(聖良さんと同じことを…)

33: 名無しで叶える物語(公衆) 2018/05/06(日) 14:48:35.09 ID:Nyfo/1nj
「…でも、二人ともそう言うってことは、つまりそれが大正解でその通りってことなのよね」ハア

「二人? まるとルビィちゃん?」

「ぴ?」

「え? あー、うん。そうよ、あんたたちのこと」

「………」ジッ

「な、なによ」

「なーんか善子ちゃん、まるたちには言ってないことがありそうなんだよねえ…」

「な…ん、のことよ…」タジ

「まあ別にいいんだけど。とにかく、話はほぼほぼ善子ちゃんしだいなんだから。まるが場を設けることくらいはできても、あとは自分で頑張らなきゃいけないよ」

「…わかってるわよ。ありがと」

***

34: 名無しで叶える物語(公衆) 2018/05/06(日) 14:49:35.53 ID:Nyfo/1nj
***

ゴロゴロ…


(ダイヤも、センパイも、いいひと)

(千歌さんと曜さんもいいひと。マリとリリーも。ずら丸とルビィも)

(みんないいひとで、差はなくって)

(あるのは、私の気持ちの違いだけ)

(千歌さんたちがダイヤたちよりも少しだけ近く感じてたのは、どうしてだろう)

(…千歌さんたち自身も後輩だから、かな)

(『上級生への接し方』を目の前で見せてくれるから、ある程度はそれに倣っていればいいわけで)

(でも、ダイヤたちは違う)

(彼女らは自分たちが最上級生だから、倣いようがない。ラインが見えない)

(千歌さんたちの『上級生への接し方』を倣ってしまっていいのか、わからない)

「…ああ、もう。面倒ね」ゴロ

「ずら丸はなんだか図太いし、ルビィは末っ子気質だし。参考にならないわ」





「ん? 誰よ…………え?! なんで…」

「……………ああだめ意味わかんない。聖良さんに電話しよ…」

***

35: 名無しで叶える物語(公衆) 2018/05/06(日) 14:50:12.84 ID:Nyfo/1nj
***

「よ! おはよう善子」

「おはようございます、善子さん」

「お、おは、ハヨザマス…」

「んー、すっきり晴れて気持ちがいいね~」ノビーッ

「本当に。風は少し冷たいですけれどね」

「あはは。このくらい、なんてことないよ。ねっ、善子」

「え?! うん、あの、私は…少し寒い、かも…」

「えー? だらしないなあ、二人とも。じゃあ走る?」

「走りません」「走らない」

「つれないな~」

「それより、まずは用事を済ませましょうか」

「走るのはそれからだね」

「走らないってば」

***

36: 名無しで叶える物語(公衆) 2018/05/06(日) 14:51:18.34 ID:Nyfo/1nj
***

「だからね、そこで鞠莉が盗塁してればよかったんだよ。そしたらハットトリックが決まってたの」

「なにか色んな話が混ざっていませんか?」

「今度は善子も一緒にやろうね」

「は?! なんの話…いや、スポーツは遠慮しとく…」

「家の中で遊んでばっかりだといい女になれないぞ~」アハハ

「まるで自分がいい女だと言わんばかりですわね?」

「Aqoursの中でなら負けないよ!」

「中途半端な自尊心ですわ」

(うう…なんでよりによって今この人たちと出掛けることに…)

(………………) モンモン

(………いや、だめだ!)

(聖良さんに教わったこと。ずら丸に言われたこと)

(私からこの二人に対する意識を変えていかなきゃ始まらない。そしてなにより、この状況そのものを楽しむ)

(そのためにはどうすればいい? 少なくとも、こんな風に下を向いて二人の後ろをついていくだけじゃだめ)

(…私は堕天使ヨハネ。できないことなど、なにも…ない!)

「く…ククク」

「善子?」

「善子さん?」

「貴女がAqoursで一番いい女とは、片腹痛い。妖しき闇を纏うこのヨハネに美貌で勝るつもりかしら」ギラリ

「………………」

「………………」

「………………………………」ドキドキドキドキ

37: 名無しで叶える物語(公衆) 2018/05/06(日) 14:52:23.38 ID:Nyfo/1nj
「……くくっ」

「!」

「言うじゃない、善子…いやヨハネ。まだまだおっぱい吸いたての一年子ちゃんに負ける気はさらさらないよ!」

「笑止! 永遠の闇を生きるこの堕天使を、人間と同じ次元で語るなど愚の骨頂よ。私から見れば貴女もまだまだお子様ね」

「へ~え、面白い! じゃあどっちがいい女か勝負だよ!」

「望むところです!」バサッ! ←不可視の翼

「…………。…ふふふ、お二人とも。最も強力なライバルをお忘れではありませんか?」クネ

「あ、そうだよね。鞠莉は手強いよね。声掛けよっか」

「ええ、そうね。マリはかなりギルティだわ。声を掛けましょう」

「お二人とも? 鞠莉さんもいいですが、もっと近くに最強の候補がいるんじゃありませんか?」クネクネ

「あれ、どうしたのダイヤ。お腹でも痛いの? よしよし。飛んでけ~」サスサス

「内よりの痛みは抗えぬ慟哭にも等しい…この堕天絆創膏をあげましょう」スッ

「な…なんですの、二人してーーーーっ!」

「うわ、ダイヤが怒った! 逃げようヨハネ!」タタッ

「興奮した獄獣には触れぬが吉。無差別格闘堕天流ーー敵前大逆走!」シュタタタ

「こらーーっ、お待ちなさ~~~いっ!!」ムキーッ

***

38: 名無しで叶える物語(公衆) 2018/05/06(日) 14:53:14.09 ID:Nyfo/1nj
***

『…って感じでした』

「ふふ…」

『な、なんですか?』

「いえ。語る口調を聞くに、もう大丈夫そうだと思いまして」

『口調…変でしたか?』

「まさか。清々しいとでも言いましょうか、先日初めてお電話くださったときの面影は全く残っていませんね」

『少しは…みんなに歩み寄れたんでしょうか』

「それは善子さんご自身が一番わかる…いえ、善子さんしかわからないことです」

『そう…ですよね』

「でも、個人的な私見を言わせてもらえば、もう悩みは解決しているように見えますよ」

『本当ですか?』

「はい。試しに、そうですね…部室で果南さんと二人きりになったことを想像してみてください。そわそわして、落ち着かない感じがしますか?」

『……………………いえ。照れ臭くてごまかしちゃうかもしれないけど、笑って話せると思います』

「ほらね。それが答えですよ」

『う…ぅえへへ…』

「………。これで、一件落着ですね」

『あ…はい、そうですね…あの、聖良さん』

「はい」

39: 名無しで叶える物語(公衆) 2018/05/06(日) 14:54:20.19 ID:Nyfo/1nj
『ありがとうございましたっ。私、ふと考えて悩み始めちゃって…あんまりお話ししたこともないのに聖良さんに電話まで掛けちゃって、毎日みたいに何時間もご相談に乗ってもらって、本当に…ありがとうございました』

「いえいえ。これからのスクールアイドル界を背負って立つエースの悩み、私なんかで力になれたのであれば、これに勝る喜びはありませんから」

『エースだなんて、そんな…まだ目の前のラブライブ!も終わってないのに…』

「大丈夫ですよ。Aqoursの皆さんなら、きっと。なんと言っても、私と理亞が直々に特訓を行なったのですからね!」

『…ふ……うふふっ。なにそれ。やっぱり聖良さんって自信家ですね』

「ふふふ…もちろんです。自信がなければスクールアイドルは務まりませんよ」

『ああーー本当に、聖良さんにご相談して正解でした』

「恐縮です。でも、悩みが解決したのは善子さん自身の力。私はただ少しだけ話を聞いて、少しだけ意見を述べたに過ぎませんよ」

『当たり前みたいに、そんなことが言えるんですね。格好いい』

「か、格好いい? ですか?」//

『あははっ、照れてる』

「は?! 誰が照れてると言うんですか! もうっ、用件が済んだのならこれで失礼しますからね!」

『………………』

「よ、善子さん?」

『ご相談したかったこと、みんな終わっちゃいました』

「え? ええ、それはよかった…」

『もう、聖良さんに電話を掛ける用事がなくなっちゃいました』

「………!」

『一週間前まで、夜をどんな風に過ごしてたのか。もう思い出せないな…』

40: 名無しで叶える物語(公衆) 2018/05/06(日) 14:55:17.18 ID:Nyfo/1nj
「………コホン。善子さん」

『はい』

「聞いたところによると、数学があまり得意ではないとか」

『…堕天使たるヨハネの前には1も0もその意義を違えず、』

「コホン。あー…スクールアイドルたるもの、勉学も疎かにしてはいけませんよ。本文を全うして初めて、その上に立つことができるのですから」

『へ、平気です。いざとなれば数学の先生に堕天精神支配術を施して内申点を』

「コホン、コホン。そのー…私の復習にもなりますし、その、いいですよ」

『…いいですよとは』

「明日からは、勉強を見てあげても…いいですよ。善子さんがお困りなのだとすればですけどね」

『…あ、あっあっ、見たい! 見たいじゃないわ、見てほしいです! 数学…そう、数学に困っているの。とっても!』

「そうですか、それなら仕方がありませんね…毎日一時間だけですよ。勉強を見てあげましょう」


「まったく、手の掛かる堕天使さんですね」



終わり

43: 名無しで叶える物語(茸) 2018/05/06(日) 15:18:07.44 ID:nU0UWBHS
おまけ


「理亞。時間を教えてもらえますか?」

「もうすぐで8時半になるよ」

「まだ8時半でしたか」ホッ


「理亞。今は何時ですか?」

「9時半だよ、姉さま」

「そうですか」ソワソワ

「うん」


「…理亞。今が何時かわかりますか?」

「10時過ぎたとこだよ」

「10時過ぎですか…」シュン

「…………姉さま。別に自分から電話してもいいと思うけど」

「は、はあ?! 電話ァ?! なにを言っているんですか、理亞! いいい意味がわかりません! あ~~~、もう寝ようかなー」

「お休みなさい、姉さま」

「ま、まだ寝ませんけどね! 部屋に引っ込むだけですよ!」

「うん、わかった」

「部屋に戻るときは電気とテレビを消すんですよ!」

「うん、わかった」

「お休みなさい、理亞」

「お休みなさい」

「…まだ寝ないので、しばらくはゴソゴソとか、もしかしたらもしもしとか聞こえるかもしれませんが、気にしないでいいからーー」

「早く部屋行きなよ、姉さま」



おまけ 終わり

46: 名無しで叶える物語(庭) 2018/05/06(日) 15:29:36.11 ID:LFOb2n7p
|c||^.- ^||新たな可能性を感じましたわ

47: 名無しで叶える物語(やわらか銀行) 2018/05/06(日) 15:30:45.37 ID:8MkTt7QL
|c||^.- ^|| 皆と仲良く出来てよかったですわ♡