1: 名無しで叶える物語(あゆ) 2018/04/16(月) 13:39:46.79 ID:HF7ZZ5T6
ここは私の部屋、薄暗くて怪しげな本とか不気味なオブジェクトが点在していて、
明るさとか可愛いさとは無縁な部屋よ。

でも、今はそこに似つかわしくない可憐な少女が一人いるの。


ルビィ「善子ちゃん、大丈夫?」

善子「えぇ……平気よ………へっ…へっくしゅん!」


大丈夫、そう答えたそばから大きなくしゃみをしてしまう。


ルビィ「善子ちゃん……」

善子「へーきだってば……」


鼻をすすりながら、もう一度大丈夫と言い、
私を心配してくれている、可愛い彼女の頭を撫でる。


季節は寒い冬を終え、春へと向かっていた。

木々には雪の残りのような、真っ白い蕾が出来ていて、
その蕾が綻ぶ時、春が来るんでしょうね。

2: 名無しで叶える物語(あゆ) 2018/04/16(月) 13:40:17.62 ID:HF7ZZ5T6
善子「うぅ……」


でも、去年までなら待ち遠しかった春も今は全然待ち遠しくない。

何故なら。


善子「へっくしゅん!」


まさか、このヨハネが……


善子「うぅ……つらい……」


花粉症だったなんてね。


ルビィ「……本当に大丈夫?」

3: 名無しで叶える物語(あゆ) 2018/04/16(月) 13:40:49.01 ID:HF7ZZ5T6
体の異変を感じたのは春休みが始まって少し経ってからだった。

外に出るとくしゃみが止まらなくて、呼吸もなんだか苦しいし、
目が痒くなって、頭の中もモヤモヤする。

なんだか熱もあるみたいだし、
最初は風邪か何かだと思ったの。

季節の変わり目だし油断しちゃったのかなって。

でも、風邪なんて栄養とって寝ておけば2、3日もせずに治るじゃない?

だからしばらくの間、家で安静にしてたんだけどね。

ずっと寝ていても一向に治る気配はなかったの。

そりゃ花粉症なんだから当たり前よね。

どうやら、この数日間無意味に休みを消化していただけみたい……

4: 名無しで叶える物語(あゆ) 2018/04/16(月) 13:41:21.45 ID:HF7ZZ5T6
善子「かゆい……」ゴシゴシ

ルビィ「あんまりかいちゃダメだよ、お目め傷ついちゃう」


はぁ、花粉症ってこんな感じなのね。

ルビィに「それ、花粉症だよ」って言われるまで気付かなかったけど。


善子「くしゅんっ……くしゅんっ!!」


辛いわ……

風邪とかそういう類いの病気ではなかったけど、
体は凄くダルいし。

時期的な物もあってか、凄く寒く感じる。

これじゃ風邪とあんまり変わらないじゃない。

5: 名無しで叶える物語(あゆ) 2018/04/16(月) 13:41:59.13 ID:HF7ZZ5T6
善子「うぅ……」

ルビィ「辛い?」

善子「うん……」


力なくそう答えながら、ルビィのお腹に頭を押し付ける。

すると「よしよし」って撫でてくれた。

ふふ、気持ちいい……


ルビィ「ルビィに何か出来ることある?」

善子「……」グッタリ


出来ること?


善子「……ある」

ルビィ「なに?」

善子「こっち来て……」グイッ

ルビィ「えっ?」


風邪じゃないから、うつす心配もないし良いわよね。

6: 名無しで叶える物語(あゆ) 2018/04/16(月) 13:42:31.45 ID:HF7ZZ5T6
善子「ルビィ」ギュッ

ルビィ「よ、善子ちゃん?」


ルビィをベットに引きずり込んで抱き締める。


ルビィ「……どうしたの?」

善子「寒いの……温めてくれる……?」

ルビィ「う、うん……わかった」


そう言うとルビィの方からも私の体をギュッて抱き締めてくれた。

7: 名無しで叶える物語(あゆ) 2018/04/16(月) 13:43:04.09 ID:HF7ZZ5T6
善子「あっ……」


ルビィの体、温かいわ。

感触も柔らかくてとても心地いい、ずっと抱きあっていたいくらい。


ルビィ「温かい?」

善子「うん、とっても……」


凄く安心する。


ルビィ「……」

善子「……」


ベットでお互い向き合いながら抱き合ってると、変な気持ちになっちゃいそう。

今は具合が悪いからそんな気も起きないけどね。

8: 名無しで叶える物語(あゆ) 2018/04/16(月) 13:43:36.05 ID:HF7ZZ5T6
ルビィ「善子ちゃん……」


でも……


ルビィ「他にして欲しいことある?」

善子「……ある」

ルビィ「なに?」

善子「目閉じて」

ルビィ「えっ?……うん?」

善子「……」チュッ

ルビィ「っ!!善子ちゃん……」


このくらいの気力はあるのよ。


善子「ふふ」

ルビィ「……もう……善子ちゃんは……」


顔を真っ赤にしたルビィが頬をぷくーって膨らませてジト目でこっちを見てくる。

怒ってるみたいね。

私はそれを見ても可愛いという感想しか抱かなかったけど。

9: 名無しで叶える物語(あゆ) 2018/04/16(月) 13:44:13.42 ID:HF7ZZ5T6
ルビィ「ルビィ、そういうつもりで来たんじゃないんだよ……?」


不機嫌そうなトーンで言い、「善子ちゃんが心配で来たんだから」と少し優しいトーンに戻して続けた。


善子「そうだったわね、ごめんなさい……」

ルビィ「……もう、大丈夫なら帰るからね」

善子「……」


それは……嫌ね……

帰られるのは……嫌……


善子「大丈夫じゃないわ……」


ルビィにしがみつきながら。


善子「全然、大丈夫じゃないの……」


ルビィ「……本当?」

善子「本当よ……私、大丈夫じゃないのよ……」


何度も大丈夫じゃないと繰り返す。

10: 名無しで叶える物語(あゆ) 2018/04/16(月) 13:44:47.39 ID:HF7ZZ5T6
善子「……だから帰らないで……」ギュッ……

ルビィ「……」


「お願い」と懇願しながらルビィの頬に自分の頬をこすりつける。


善子「帰っちゃ嫌よ……」

善子「ルビィがいないと……辛くて…苦しくて……寂しいの……」

善子「だから側にいて……」

ルビィ「善子ちゃん……」

善子「お願い……」

ルビィ「もう……仕方ないなぁ」


ふふ、ルビィは本当に優しいわね。

だから、大好きよ。

11: 名無しで叶える物語(あゆ) 2018/04/16(月) 13:45:19.33 ID:HF7ZZ5T6
善子「ルビィ……」

ルビィ「なに?」

善子「好きよ……」

ルビィ「…………知ってる」


そう答えてから、ルビィは照れた様子で目をそらす。

本当に可愛い……

私のルビィ……

12: 名無しで叶える物語(あゆ) 2018/04/16(月) 13:45:51.41 ID:HF7ZZ5T6
善子「ねぇ……」

ルビィ「なに?」

善子「私を甘やかして……」

ルビィ「もう十分甘やかしてると思うけど……」

善子「足りないのよ……」

ルビィ「……」

善子「お願い……」

ルビィ「……何したら良いの?」

善子「うーんとね……」


ルビィにして欲しいこと……

たくさんあるけど、今お願いしちゃいけないことばかりが頭に浮かぶ。

そんな気力ないのに不思議よね、人の頭って。


善子「……」キョロキョロ


ルビィにお願い出来そうな事を探すように部屋を見渡してみた。

13: 名無しで叶える物語(あゆ) 2018/04/16(月) 13:46:23.52 ID:HF7ZZ5T6
ルビィ「思いつかないなら無理に探さなくてもいいよ……」

善子「ある……ルビィにしてほしいこと……あるのよ……」

ルビィ「……変なお願いはやめてね」


「わかってるわよ」と返答しながら、キョロキョロ部屋を見渡すと、あるものに視線が止まる。


善子「あっ……」

ルビィ「……?」

善子「あれ……ほしい……」スッ


ベットの脇に置いてあるテーブルを指差す。


善子「喉乾いたから……」


その上に乗ってる、ルビィに買ってきて貰ったトマトジュースを指して、
「飲ませて」ってお願いした。

14: 名無しで叶える物語(あゆ) 2018/04/16(月) 13:47:13.46 ID:HF7ZZ5T6
ルビィ「ジュースが欲しいの?」

善子「……」コクッ

ルビィ「わかった」スッ

善子「っ……」ギュッ

ルビィ「……」

善子「……」ギュッ……!

ルビィ「……離してくれないと取れないよ?」

善子「離れたくないの……ルビィと……」

ルビィ「ジュースいらないの?」

善子「ほしい」

ルビィ「じゃあ離して?」

善子「いや……」

ルビィ「……」

善子「側にいて……」ギュッ…

ルビィ「ジュースは?」

善子「飲みたい……」

ルビィ「……」

善子「でも、離れたくない」ギュッ……

15: 名無しで叶える物語(あゆ) 2018/04/16(月) 13:47:40.40 ID:HF7ZZ5T6
ルビィ「…………もう、仕方ないなぁ」グッ……


ルビィは私に抱きつかれたまま一生懸命、腕を伸ばしてテーブルに手をかけようとしてる。


ルビィ「うーん……!」パタパタ


必死で手を伸ばしてて……


ルビィ「んんっ……!」パタ…パタ…


可愛い……


ルビィ「んっ…………しょ!」ガシッ


あっ、掴めたみたいね。

もうちょっと眺めていたかったけど。

16: 名無しで叶える物語(あゆ) 2018/04/16(月) 13:48:21.93 ID:HF7ZZ5T6
ルビィ「ほら、取れたよ」

善子「……そうね」グタァ…

ルビィ「?」


あぁ……

頑張って取ってもらって悪いんだけど、別にそこまで飲みたい気分じゃなくなってきちゃったわ。

テーブルの上にあった時は魅力的に感じたんだけどね……

喉は乾いてるけど、我慢できない程じゃないし、
そもそもトマトジュースなんか飲んでもそんなに喉潤わないしね。


ルビィ「はい、善子ちゃん」スッ

善子「……」


起き上がって飲むのめんどくさいわ……

17: 名無しで叶える物語(あゆ) 2018/04/16(月) 13:48:53.19 ID:HF7ZZ5T6
ルビィ「どうしたの?」

善子「……」


あぁ、めんどくさい……


ルビィ「?」


めんどくさいから……


善子「……ねぇ」

ルビィ「なに?」

善子「飲ませて」

ルビィ「えっ?」

善子「ルビィの口に含んで、それを私に飲ませて」


それならめんどくさいないしね。


ルビィ「えっ!!」

善子「早く……」

18: 名無しで叶える物語(あゆ) 2018/04/16(月) 13:49:27.78 ID:HF7ZZ5T6
ルビィ「や、やだよ……そんな恥ずかしい事……」

善子「嫌なの……?私にキスするの」

ルビィ「そうじゃないけど……」

善子「じゃあ……」

ルビィ「で、でも…恥ずかしいし…」

善子「……ふーん、私とキスするの恥だって感じてたのね……」

ルビィ「……違うってば……」

善子「悲しいわ……」

ルビィ「変なお願いはしちゃダメって言ったよね……?」

善子「……私とキスするの変だって言うの……?」

ルビィ「……違うよ」

善子「ルビィ……今までそんな風に思ってたのね……ぐすん」

ルビィ「……もう、あんまりルビィを困らせないで……」

善子「うぇーん……」

ルビィ「……もう、今日だけだよ?」

19: 名無しで叶える物語(あゆ) 2018/04/16(月) 13:50:05.13 ID:HF7ZZ5T6
そう言うとルビィは仕方なさそうにトマトジュースに口をつける。

やっぱりルビィは優しい。


ルビィ「うぅっ!」


あら、お砂糖入ってないトマトジュースだからか、
ルビィが辛そうにジュースを口に含んでいるわ。


ルビィ「んっ……」


早く、私に口移そうとルビィの方からキスを迫ってきた。

ルビィからキスしてくるなんてちょっと新鮮で、ドキッてしちゃうわね。


善子「……」ゴク……ゴク……


ジュースが私の口に流れ込んでくる。

いつもより甘く感じるのはルビィを介して飲んでるからかしら。

美味しい……

20: 名無しで叶える物語(あゆ) 2018/04/16(月) 13:50:33.14 ID:HF7ZZ5T6
ルビィ「っ……」

善子「……」ゴク……


赤い液体が唇の端から少しだけ漏れる。

なんだか吸血鬼にでもなったみたいね。

いけないことしてるみたいに思えてきちゃう。

21: 名無しで叶える物語(あゆ) 2018/04/16(月) 13:51:17.67 ID:HF7ZZ5T6
ルビィ「んっ……」

善子「……」ゴク……


……そういえば、トマトジュースって花粉症に良いらしいわね。

だから買ってきて貰った訳じゃないけど。


善子「……」サワッ……

ルビィ「んっ……!」


まぁ、根拠が乏しかったから私は信じてないのよね。


善子「……」サワ…サワ…

ルビィ「んんっ!」


だって調べたら改善するとか悪化するとか言われてたんだもん。

どっちなのって話じゃない?


善子「……」ギュッ……

ルビィ「んっ!!……ちょっと!」バッ


ルビィが急に私の体を突き放す。


善子「なによ……」


寒いわね……

私から離れないでよ。

22: 名無しで叶える物語(あゆ) 2018/04/16(月) 13:51:57.12 ID:HF7ZZ5T6
ルビィ「えっちな事しないで……!」

善子「……?」


そういえば、いつもの癖でルビィの体触ってたわね。

いつものキスした時の癖でね。


善子「無意識よ……」

ルビィ「もう……」

善子「ルビィがいやらしいキスしてくるから」

ルビィ「っ!!してないもん!」

善子「そんなことより、寒いから……早く温めてよ」ブルッ……

ルビィ「……」

善子「ルビィ……早く……」ガタガタ……

ルビィ「もう、変なことしないでよ……」

善子「そんな元気ないわよ……」

ルビィ「してたくせに……」ギュッ

善子「……」グタァ……


あぁ、温かい……

体の力が抜けていく……

23: 名無しで叶える物語(あゆ) 2018/04/16(月) 13:52:28.54 ID:HF7ZZ5T6
善子「……」フワァ……


それと同時に頭がぼんやりしてきた……

頭が重い……

重力が頭のある位置だけに集中してるみたいな感覚で辛いわ……

まぶたも重くなってきてとっても眠い……


善子「うぅ……」ゴロゴロ……


でも、眠いのに眠れそうにないの。

24: 名無しで叶える物語(あゆ) 2018/04/16(月) 13:53:26.10 ID:HF7ZZ5T6
ルビィ「今度はどうしたの?」

善子「眠い……」

ルビィ「じゃあ、一緒にお昼寝する?」

善子「でも、眠れないの……」

ルビィ「そうなの?」

善子「辛い……」

ルビィ「大丈夫?」

善子「……」フルフル

ルビィ「そう……」ナデナデ

善子「うぅ……」

ルビィ「苦しいね……」

善子「うん……」

ルビィ「……よしよし」ナデナデ

25: 名無しで叶える物語(あゆ) 2018/04/16(月) 13:53:58.19 ID:HF7ZZ5T6
善子「……ねぇ」

ルビィ「なに?」

善子「眠るまで頭撫でたり……ほっぺたさすたっり……背中ポンポンして……」

ルビィ「お手てが足りないよ」

善子「交互でいいから」

ルビィ「もう、本当に甘えん坊さんなんだから……」

善子「今度ルビィにもしてあげるから……ね?」

ルビィ「ルビィは別にいいもん……」

善子「辛いから……早くして…」

ルビィ「もう……わがままばっかり」ナデナデ

善子「ん……」フニャ……

26: 名無しで叶える物語(あゆ) 2018/04/16(月) 13:54:40.85 ID:HF7ZZ5T6
ルビィに撫でられてる……

気持ちいい……

ルビィに触られるの、大好きよ……

だって優しく触ってくれるから。


ルビィ「……」スリスリ


とっても安心するの……


ルビィ「……」ポンポン


辛い時もルビィが慰めてくれるだけで……

辛くなくなるの……


ルビィ「……」ナデナデ


それは……幸せだから……

ルビィと一緒にいられるのが……

ルビィと同じ時間を生きていられることが……

ルビィに愛されてることが……

とっても幸せで……

27: 名無しで叶える物語(あゆ) 2018/04/16(月) 13:55:21.62 ID:HF7ZZ5T6
ルビィ「……」スリスリ


私の中の不安とか恐怖みたいな悪い感情……

それを全部、幸せで塗りつぶしてくれるの……


ルビィ「……」ポンポン


辛いことが……

あってもね……

貴方さえいれば……

私は………



わたしは………………

28: 名無しで叶える物語(あゆ) 2018/04/16(月) 13:55:59.80 ID:HF7ZZ5T6
 
善子「……」スー…
 

29: 名無しで叶える物語(あゆ) 2018/04/16(月) 13:56:32.18 ID:HF7ZZ5T6
ルビィ「…………善子ちゃん?」


ルビィ「寝ちゃった?」


ルビィ「…………」


ルビィ「眠れたみたいだね」ナデナデ


ルビィ「もう、苦しくないかな?辛らくないかな?」


ルビィ「起きたら元気な善子ちゃんになってるといいなぁ……」スリスリ


ルビィ「ふわぁ……」


ルビィ「ルビィも眠くなってきちゃった……」


ルビィ「…………」ポンポン


ルビィ「ルビィも寝るね……」


ルビィ「……おやすみ、善子ちゃん」チュッ


ルビィ「えへへ……」


ルビィ「夢で会えると良いなぁ……」


ルビィ「……善子ちゃん……」



ルビィ「…………」スー…

30: 名無しで叶える物語(あゆ) 2018/04/16(月) 13:57:01.06 ID:HF7ZZ5T6
おしまい

33: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2018/04/16(月) 14:26:21.92 ID:WUhowylp
乙GJ
いいぞ。よいぞ