6:2016/01/18(月) 21:18:18.16 ID:
私たちの衣装は、多少皆も手伝いはするにしろ、ほとんどことりが、一人で9人分仕上げている。

そんな超人的なことをやってのけていることり。

前に、こっそり聞いたことがある。

…と言っても、希には聞かれてたみたいだったけど。



真姫「…ねえ、ことり」

ことり「どうしたの、真姫ちゃん?」


笑顔をこっちに向ける。

顔を逸らしても、ちくちくと細かい部分を手縫いするその手元はまったくブレない。

…すごい。


真姫「…大変じゃないの?」

ことり「大変?」

真姫「…みんなの衣装、ほとんど一人で作ってるじゃない?」

ことり「うーん、大変じゃない、って言ったらウソになるかもだけど…」

真姫「でしょう? もっと皆に手伝ってもらってもいいんじゃない?」

ことり「…ううん、いいの。この衣装を仕上げることが、ことりの気持ちの表現でもあるから」

真姫「…それって?」

ことり「…みんなへの愛、かなっ♡」


…正直、かっこよかった。
7:2016/01/18(月) 21:20:43.53 ID:
凛の事件から数日経ったある日の放課後。


ことりが久しぶりに、部室にやってきた。


花陽「…ことりちゃん!」

ことり「…あの、みんな…ごめんなさいっ!」


ことりは頭を下げて話し出す。


ことり「…ことり、最近、穂乃果ちゃんのことばっかり…」

にこ「…謝るくらいなら、これ見てもらえる?」

ことり「…ふぇ?」


部長の特等席に座ったにこちゃんが、むすっとした顔で言う。


にこ「もうすぐ仕上がるから。これ、ちゃんと出来てるかどうか見てもらえるかって言ったのよ」

ことり「え、えっと…」

絵里「にこのが終わったらこっちもお願いね。衣装のデザイン、考えておいたから」

ことり「え、あの…」

凛「凛もね、真姫ちゃんの家で色々勉強したんだよ! 裁縫もできるようになったにゃ!」

海未「その後はこっちをお願いします。真姫と新曲を仕上げましたので、絵里のデザインした衣装と合うかどうか見てください」

希「…ええんよ、ことりちゃん」

ことり「希ちゃ…」

真姫「…これは正式な活動じゃなくて、ただ私たちが部室に来て、ダラダラしてるだけ。それだけのことなんだから」

希「誰も怒ってたりせーへんよ」

ことり「…」

真姫「さ、早く入ってきて。手伝ってあげなさいよ」

ことり「…う、うんっ!」

穂乃果「いやぁ、よかったねぇ…」

真姫「…あなたもことりに連れ回されてただけで、何もしてないでしょうが」

穂乃果「えへ、バレた?」
8:2016/01/18(月) 21:24:17.60 ID:
前の吸血鬼騒動の後遺症で、しばらくの間穂乃果にメロメロになった被害者4人。

海未や絢瀬姉妹はそんなに時間がかからなかったけど、ことりが治るのには、あれからかなり時間がたった。


真姫「ことりも治ってよかったわね」

希「そやねぇ。やーっといつも通りの日常に戻ったなぁ」

真姫「…それにしても、なんでことりだけ治るのが遅かったのかしら」

希「…ん~。うちなりの推測なんやけど」


海未に関しては、私がその現場に遭遇したおかげで、吸血が中断された。

絵里は、亜里沙ちゃんがたまたま部屋に入ってきたから中断させられた。と、穂乃果…というか、吸血鬼が言っていたらしい。

亜里沙ちゃんは、絵里を助けに行った希が部屋に押し入ったところ、丁度吸われていたそうだ。

つまり、ことりだけは吸血が完全に終了していた。

ことりは、もう穂乃果の眷属になる直前で。

吸血鬼を倒すまで大人しく寝ていてくれたけど…もう一歩遅かったら、穂乃果の眷属…吸血鬼として、目覚めていたかもしれない。

…そこをドリームトリガーで撃ち抜いた。

穂乃果への忠誠が強かったことりは、それが消えるまで時間がかかってしまったのではないか。


…と、語ってくれた。


希「…ってことで、どうかな」

真姫「どうかなって…」


そんなこと言われても、納得するしかないわよね。他に判断材料がないんだから。


希「あとは…ほら、もともと穂乃果ちゃんラブなところあったやん? それも関係してたりしてね。怪異現象って、人間の心とか身体と共鳴しちゃうこともあるし」

真姫「…ふぅん」


凛に猫が憑りついたもの、いつもニャーニャー言ってるからだった…ってことかしら。


…ということで、ことりと穂乃果も加えて、また9人で、毎日部室に集まることとなった。

その日はことりと穂乃果が加わったこともあり、下校時刻ギリギリまで学校に居た。

ことりは1人で寄りたいところがある、と言って途中で別れた。


…何か、胸騒ぎがする。

…止めておけばよかったかしら。
9:2016/01/18(月) 21:26:40.73 ID:
翌日の早朝。


ぴろん。


…こんなに朝早くからメッセージ。…ことりから。


< みんな、今日一緒に学校行かない?


…ことりからこういうことを提案してくるのは珍しいわね。

肯定の旨を伝える。

他のみんなも、次々に賛成のメッセージを送ってくる。


…9人で登校するなんていつぶり? …はじめてかな。



神田明神で待ち合わせして、みんなで一緒に学校に行くことに。

少し遠回りになる人もいるけれど…皆それも気にせず、早くから集まっていた。

私も早めに家を出たんだけど、教科書を忘れて一度戻った。

…待ち合わせで穂乃果とか凛に負けるのはなんとなく悔しい。


…あれ?

何か様子がおかしい。


ことり「えへへ、えへへぇ~…♡ 真姫ちゃぁ~ん、おはよぉ~…♡」


恍惚とした表情を浮かべていることり。

妙に赤い顔でへたりこんでいる他7人。

…いったい、何が…?



ぞくり。


真姫「ひぃっ…!?」
10:2016/01/18(月) 21:30:11.96 ID:
お尻を撫でられた。


真姫「こ、ことり…」

ことり「真姫ちゃん、だぁいすきぃ…♡」


耳元で囁かれる。


身体中の力が抜ける。


…なんか、気持ちいい…






あやうく、μ`s揃って集団遅刻するところだった。


待ち合わせ場所に来た順番から、ことりの囁きと妖しい手つきで、みんな骨抜きにされてしまっていた。

セクハラに定評のある、あの希まで一本取られていた。(本人曰く、セクハラではないらしいけれど)

あの後ことりがちゃんと現実に引き戻してくれたからいいけれど…

予鈴ギリギリに登校なんて、生まれて初めてよ。


…穂乃果ラブ強化月間が終わったと思ったら、標的がμ`s全員に変わった。


…まさか?
11:2016/01/18(月) 21:34:10.25 ID:
休み時間、たまたま海未と穂乃果とすれ違った。

…二人とも、なんだかげっそりしている。


真姫「ちょっと…顔色悪いわよ? 大丈夫?」

海未「え、ええ…その…」

穂乃果「…ことりちゃんから…」

真姫「ことり? ことりがどうか…」


ダレカタスケテー!


真姫「…今の、花陽の声?」

海未「うっ…わ、私は教室に戻ります!」

穂乃果「わ、私もっ! 花陽ちゃんごめんっ!」


いつも廊下は走るなと注意する側の海未が、穂乃果と共に廊下を猛ダッシュしていった。

…いったいなにが…


花陽の悲鳴が聞こえた女子トイレに入ってみると、ことりが花陽の頭やら頬やらを撫でまわしていた。

…うわぁ。


ことり「花陽ちゃん、やわらかぁい…」

花陽「う、うぅ…」


真姫「…ちょ、ことり…」

ことり「あぁ…っ♡ 真姫ちゃん…♡」

真姫「ひっ…」


ごめん、花陽。


花陽「ま、真姫ちゃん!? なんで逃げるのぉ!?」

真姫「…私にも、できないことくらい、あるわ…」

花陽「えええぇぇ!?」


私は女子トイレを後にした。
12:2016/01/18(月) 21:39:11.05 ID:
昼休み、ことりを除いたμ`sのメンバーが生徒会室に集まっていた。

…というか、避難してきていた。部室だと、ことりが来る可能性があるから。


穂乃果「ことりちゃん、どうしちゃったんだろ…」

海未「隙あらば耳元で囁き、身体を触ってきて…ことりの声、すごくくすぐったいんですよ…」

凛「おかしくなっちゃいそうだにゃ…」

花陽「うぅ…」

にこ「まったく…どういうことなのよ」

絵里「…帰りたいわ」


みんなそれぞれにトラウマを背負ってしまった。

こういう時に頼れる彼女も…


希「…うち、もうワシワシマックスとかするのやめよかな…」


…。

でも、このままいたって仕方ないわよね。



真姫「…ねえ、希」

希「…ん?」

真姫「…まさかとは思うんだけど」

希「…うちもその線で考えてみたけど、現時点では何も思い当たらん…それに、手がかりも少ないし」

真姫「…そう」


希もよくわかっていないらしい。

こうなればもうお手上げだ。ことりのされるがままになるしかない。

…というわけにもいかない。

同じクラスの海未と穂乃果なんかは、1週間徹夜したみたいな顔になっている。


花陽「…ことりちゃんも、色々溜めこんでたのかなぁ…」


…今までたしかに、ことりはあまり自分を表に出さない人だった。

色々溜まってしまうのも分かる。

…でも、これは度が過ぎていないかしら?
13:2016/01/18(月) 21:41:07.09 ID:
放課後。


…あれ?

ポケットに、入れた覚えのないハンカチが一枚。

…これ、ことりちゃんのハンカチだ。printempsの練習の時、大事にしてたからよく覚えてる。

間違って持ってきちゃったんだ…届けてあげないと。

…で、でも、またほっぺぷにぷにされたり、胸をワシワシされたり…


うぅ…


いや、でも、やっぱり、届けにいこう。

ことりちゃん、困ってるかもしれないし。



ことり「あっ、いらっしゃぁ~い! 花陽ちゃん♡」

花陽「ことりちゃん、私、いつのまにかハンカチ持ってきちゃってて…」

ことり「…ふふっ、そうだったんだぁ~…ありがとう! あっ、せっかくだから…お茶とか、飲んでいかない?」

花陽「え、でも…」

ことり「いいからいいからっ」

花陽「…じ、じゃあ…ちょっとだけ…」

ことり「うんっ! じゃあ、あがってあがって~♡」

花陽「お邪魔しま~す…」


ことり「こっちだよ~っ」

花陽「うんっ」

ことり「それじゃあ、ちょっと待っててね♪」




ことり「…うふふっ♡」
14:2016/01/18(月) 21:45:26.52 ID:
部屋でごろごろしていたら、お母さんに呼ばれた。

そろそろご飯かにゃ?


凛ママ「凛ちゃーん」

凛「なにー?」

凛ママ「うちにかよちん来た?」

凛「今日? 今日は来てないよー」

凛「そっか。…うん、うちには来てないってさ。…あー…そだね。うん、わかった。それじゃ」

凛「どうかしたの?」

凛ママ「んー、なんかかよちん、ことりちゃん家に忘れ物届けに行って、帰ってこないんだってさ」

凛「かよちんが…?」

凛ママ「そ。…かよちんもヤンチャしたいお年頃なのかなぁ」

凛「…」


ことりちゃんの、家…


…かよちんが危ないかも…!


凛ママ「あっ、ちょっ! どこ行くの!?」

凛「かよちんのとこ!」



急がないと…っ!
15:2016/01/18(月) 21:47:26.18 ID:
どんっ。


「きゃっ…」

凛「にゃっ!」


誰かにぶつかってしまった。交通事故にゃ…!


凛「ご、ごめんなさいっ!」

「…ちょっと、気を付けなさいよ!」

凛「…真姫ちゃん!」

真姫「…凛? そんなに急いでどうしたのよ? しかもこんな時間に…」

凛「真姫ちゃんこそ…」

真姫「私はちょっと希のところに。…で、凛は?」

凛「凛は…あっ、そう! かよちんが危ないかもしれないの!」

真姫「花陽が…?」

凛「そうなのっ!」

真姫「…私も行くわ」

凛「うんっ、一緒に…」


そうだ、この前も凛とかよちんのこと、真姫ちゃんと希ちゃんが助けてくれたんだし…


…いや!



凛「…やっぱり、大丈夫!」

真姫「え?」

凛「今度は凛がかよちんを助ける! 真姫ちゃんは、もし凛が帰ってこなかったら、また助けて!」

真姫「ちょっと、凛! どこに…」

凛「ことりちゃん家ーっ!!」


おどおどしてる真姫ちゃんなんて構わない。

凛はことりちゃんの家に、一直線に駆け出した。
16:2016/01/18(月) 21:49:07.72 ID:
ききーっ。


急ブレーキをかける。

…ここだ。

…ケータイを取り出して、真姫ちゃんとの個人チャットを開く。

短いメッセージを打ち込んでおく。

もし何かあったら、この送信ボタンを押せば…真姫ちゃんが助けてくれるはずにゃ。


ぴんぽーん。


チャイムを鳴らす。


『は~い』

凛「…ことりちゃん?」

ことり『そうだよ~』

凛「あの、星空凛ですっ」

ことり『…凛ちゃん? うふふっ、いらっしゃい』


ドアがゆっくり開いて、ことりちゃんが出てきた。
17:2016/01/18(月) 21:51:27.05 ID:
凛「ねえねえ、かよちん来てない?」

ことり「花陽ちゃん? …うん、来たよ」

凛「本当に!? 今どこにいるの!?」

ことり「うちにいるよ」

凛「ほんと!? かよちんに言って! かよちんのお母さんも心配してるよって! 早く帰らないと…」

ことり「…」

凛「…ことりちゃん?」

ことり「凛ちゃんは、花陽ちゃんを、迎えに来たの?」

凛「そうだよ?」

ことり「つれてかえるの?」

凛「…そうだけど」

ことり「…そっか」

凛「…?」

ことり「…」

凛「…ね、ねえ、ことりちゃん? そんなに怖い顔しないで…?」

ことり「…凛ちゃん、花陽ちゃんは帰りたくないって言ってるから」

凛「な、なんで…」

ことり「凛ちゃん、おいで」

凛「…」

ことり「花陽ちゃんもいっしょだよ」

ことり「いっしょに」


凛「…っ」



背筋が凍る、ってこういう感じだと思う。


ことりちゃんはお面みたいな笑顔で、凛をまっすぐ見つめて、こっちに手を伸ばしてる。

…手を掴んだら、そのまま全部、なにもかも持っていかれちゃいそう。


凛「…じゃあ、お邪魔します」



ことり「うん おいで」
19:2016/01/18(月) 22:02:34.14 ID:
凛「…えっ」


ことりちゃんに案内されたのは、ことりちゃんのお部屋…の、隣のお部屋。

薄暗くて、でも綺麗にお掃除されたそのお部屋には―――――



凛「…こ、ことりちゃん…何したの…!?」


ことり「うふふっ♡」



凛がそう聞いても、ことりちゃんは笑うだけ。



花陽「りんちゃん」

凛「か、かよちん…」

花陽「ずっといっしょだよ」

凛「? 何言って…」


ことり「…すぅっ」
29:2016/01/18(月) 23:23:36.68 ID:
凛と別れて希の家に向かう途中、雪穂ちゃんから電話があった。


雪穂『…忘れ物届けるとかなんとかは言い訳で、家出かと思ったんですけど…いつもの家出先の海未ちゃんも、家に居ないらしくて』

真姫「ことりの家は?」

雪穂『とも思ったんですけど…ことりちゃんも電話出なくて』

真姫「…じゃあ、こっちでも連絡取ってみる。何かわかったら教えるわ」

雪穂『ありがとうございます』



希の家に着いてしばらく話していると、凛からチャットが届いた。


『助けてにゃー!>ω</』


…凛に何かあったのは間違いないみたいね。

メッセージだけ見ると、だいぶ余裕そうだけど。


真姫「消えた花陽と穂乃果に海未、そして凛からのメッセージ…これで、ことりに何か憑いてるのは確定と見てよさそうね」

希「…そうやね。ただ、何の怪異が憑りついているのか、まだよくわからないんよ」

真姫「そうなの?」

希「うん…誰かを連れてっちゃう、とか、監禁する、みたいなのはいっぱいいるんやけど…ことりちゃんからの愛情がバーストしたことと結びつかなくて」

真姫「…つまり、何か他に推理するきっかけがつかめればいいのね」

希「それは、まあ…」

真姫「…じゃあ、私が囮になるわ」

希「真姫ちゃん!? またっ…」

真姫「凛が自分の身を懸けて知らせてくれたSOSよ。今度は私が…」

希「真姫ちゃん」

真姫「…何よ」

希「…真姫ちゃん。自己犠牲は尊いことだけど、正しいことじゃないんよ」


べしっ。


希「お゛っ…」


希の腕を軽く叩く。
30:2016/01/18(月) 23:36:55.42 ID:
真姫「自己犠牲が云々なんて、どの腕で言うわけ?」

希「…うちの身体はどうにでもなる。でも、やっぱり真姫ちゃんには囮になんてなってほしくないし…それに、きっかけが掴める保障なんて…」

真姫「あーもう、うるさいわね! あなたも見てたでしょう? 穂乃果の時も凛の時も、私が捨て身でなんとかしてきたじゃない」

希「それは…」

真姫「正しくないなんて、何をいまさら、って感じよ。大丈夫、今回だってなんとかなるわ」


そう吐き捨て、ドアを開ける。


希「待って!」

真姫「…?」

希「…どうやってうちに情報を伝えてくれるん?」


希から小型のコードレスのイヤホンを投げ渡される。


希「これで電話すれば、バレずに情報交換できるやろ」

真姫「…ありがと」

希「帰ってきたらお説教やからね」

真姫「考えておくわ」


私は希の家を飛び出した。
31:2016/01/18(月) 23:39:51.70 ID:
…途中、ことりの裁縫セットを持った絵里に会った。


真姫「…絵里、それどうしたの?」

絵里「ああ、なんか私、間違って持ってきちゃったみたいで…これ無いと困るだろうし、届けに行こうかなって…」

真姫「…今はダメよ」

絵里「え?」

真姫「…さっき、不審者がうろついてたのよ。危ないから、帰った方がいいわ」

絵里「…そうなの…? じゃあ、帰ろうかしら…真姫も一緒に帰る?」

真姫「…ええ」


ここで私が反対方向に進んでいったら、絵里に怪しまれる。

仕方ない。いったん引き返して、それからまたことりの家に向かおう。

とりあえず、希に報告。スマホを取り出し…

…?

スマホを取り出すと同時に、ポケットからリップが零れ落ちた。

私、こんなリップ持ってたっけ。これ、ことりのよね。


絵里「…真姫、なんか夕方ってちょっと不安にならない?」

真姫「そうね。お化けでもでるかもね」

絵里「おっ…おばけ…」

真姫「…あ、ちょっと電話。待ってて」

絵里「え、ええ…は、早くね? 早くしてね?」

真姫「うるさい」

絵里「はい…」


しつこい絵里を叱りつけ、希に電話をかける。
32:2016/01/18(月) 23:41:09.65 ID:
真姫「…希。ことりの裁縫セットを持った絵里に会ったわ」

希『そうなの?』

真姫「ええ。届けに行こうとしてたから、止めておいた。今から絵里の家にいったん寄ることにするわ」

希『そっか。…実はうちも、ポッケにことりちゃんのいつも使ってるシャーペンが紛れ込んでたんよね』

真姫「…私も、ことりのリップがポケットに入っていたわ」

希『多分、朝から帰るまでの間、どこかのタイミングで入れられたんやろね。…ことりちゃんのアイテム自体に何か仕掛けがあるのか、それとも…』

真姫「…何よ?」

希『これ自体には仕掛けは無くて、ことりちゃんの家に届けさせるのが目的か』

真姫「…」

希『まあ、とりあえず絵里ちの件は了解。気を付けて』
33:2016/01/18(月) 23:46:17.24 ID:
妙に夜道を怖がる絵里を送り届けた後、再びことりの家に向かった。


チャイムを押す。数秒待って、ことりが出てくる。


真姫「…こんばんは」

ことり「あ、真姫ちゃん! いらっしゃ~い♪ どうしたの?」

真姫「…ちょっとことりに会いたくなったのよ」

ことり「えっ…?」


何よ、その間は。

ことりは、ぱぁっと笑顔になり、


ことり「…嬉しい…! 真姫ちゃんっ!」

真姫「ゔぇぇ…」


私は抱き付かれる。

ことりの甘い匂いと声、柔らかさが全身を襲う。

通りすがりの男子高校生が鼻の下を伸ばしてこちらを見ていたり、買い物帰りのおばさんがクスクスと笑っていたりする。


真姫「…ち、ちょっと…人に見られてるから…」

ことり「あっ…ごめんねっ。どうぞ、あがってあがって~」

真姫「ええ…お邪魔します」

ことり「えへへ、嬉しいなぁ…真姫ちゃんから、ことりに会いたいって言ってくれるなんて」

真姫「まあ、ちょっとね…」


怪しまれることなく、ことりの家に乗り込むことに成功した。

今のところ、変わった様子はない。


…希には、電話を繋ぎっぱなしにしてリアルタイムに情報を共有。

左耳に装着したイヤホンは、ことりにはバレていないようだ。


真姫「ことりの家にあがったわ 今のところ何もない」

希『了解』
34:2016/01/18(月) 23:47:27.83 ID:
ことり「こっちへどうぞ~」

真姫「…ええ」

ことり「今、お茶とお菓子持ってくるね」

真姫「いいわよ、ご飯食べてきたもの」

ことり「まあまあっ」

真姫「…あ、そうだ。ことり、これ」

ことり「あ、リップ?」

真姫「…ええ。私のポケットに紛れ込んでたみたい」

ことり「ありがとぉ~…届けてくれるって思ってたよぉ! じゃあ、ちょっと待っててね」



真姫「聞こえた? お茶とお菓子が出てくるわ。どうするべき?」

希『食べないでおいて。そこにも何かあるかもしれんし、様子を見よ。…それと』

真姫「ええ。…届けてくれるって思ってた、ね」

希『…ことりちゃんの私物は、やっぱりみんなをおびき寄せるためのエサ…ってことなんやろね』
35:2016/01/18(月) 23:50:17.38 ID:
ことり「それでね、海未ちゃんが…」

真姫「…」


希『…どう?』

真姫「変わったところはないわ。ずっと衣装とか、曲とか、μ`sのメンバーのことばかり喋ってる」

希『…うーん』

真姫「どう、何か…」

ことり「…真姫ちゃん?」

真姫「あっ!? な、なに? どうかしたの?」

ことり「…食べないの?」

真姫「…あ、あぁ…だから、さっきいいって言ったじゃない…お腹いっぱいなのよ」

ことり「…そっか」

真姫「…?」


真姫「…様子が変ね」

希『警戒を怠ったらあかんよ』

真姫「わかってるわ。…とにかく、帰るフリをしてみる。隙が見えたら"撃つ"わ」

希『…気を付けて』


真姫「…ねえ、ことり。そろそろ帰るわ」

ことり「…真姫ちゃん」

真姫「?」

ことり「…帰るの?」

真姫「ええ…せっかくお茶もお菓子も出してもらって申し訳ないけど」

ことり「なんで?」

真姫「…なんでって、もうそろそろこんな時間だし」

ことり「…帰ること、ないよ」

真姫「…どういうことよ」

ことり「みんないっしょだもん…ずっと…」


真姫「会話がすれ違ってる気がするわ」

希『たしかに…』
36:2016/01/18(月) 23:52:37.09 ID:
ことり「…真姫ちゃん、帰るの?」

真姫「え、ええ…そう言ってるじゃない」

ことり「…そっか」

真姫「じゃあ、お邪魔したわね」

ことり「うん」

真姫「…っ」


ぞくりとしたなにかを感じながら、部屋を出る。



…?


今、この隣の部屋から何か聞こえなかった?


真姫「…希? 何か聞こえなかった?」

希『え? 何かって?』

真姫「…気のせいかしら」


後ろを黙ってついてくることりに聞いてみる。


真姫「…ねえ、ことり」

ことり「…なに?」

真姫「この部屋って」

ことり「入ってくれる?」

真姫「…くれる?」


入ってみる、じゃなくて…入って「くれる」?


ことり「…みんな…真姫ちゃんも、来てくれたよ…」

真姫「…みんな?」


ことりはその扉を開ける。
37:2016/01/18(月) 23:55:04.15 ID:
薄暗い部屋に、何かが蠢いている。

その正体は、凛、花陽、穂乃果、海未。

虚ろな目でこちらを見つめている。


凛「まきちゃん やっときたの? おそいよ」

真姫「…凛、ごめんなさい」

花陽「まきちゃん、いらっしゃい」

真姫「…いえ、もう帰るわよ。穂乃果、海未、あなたたちもことりの家に泊まるなら、ちゃんとお家に連絡しなさい」

穂乃果「なんで?」

海未「そのひつようはありませんよ」


その部屋から背を向けた私の足を、海未が掴む。


真姫「なっ…何するのよっ…」


隠し持っていたドリームトリガーに手をかける。

こうなれば強行突破しかない。


穂乃果「かえっちゃだめだよ」

花陽「もうかえれないよ」

凛「みんないっしょだよ」


…けれど、花陽にもう片方の足。凛と穂乃果に両腕を掴まれる。


真姫「ひっ…」


…表情が無いのに笑っている、と言えばいいのかしら。

とにかく不気味な表情の4人に、恐怖を感じた。


希『真姫ちゃん? 真姫ちゃん! 何が起きてるん!?』

真姫「くっ…離しなさいよっ…」



ことり「…すぅっ」


…ことりが大きく息を吸い込んだ。
38:2016/01/18(月) 23:57:36.39 ID:
「かごのなか とじこめて」


希『…これ、ことりちゃんの歌?』


ことりは取り押さえられる私をよそに、歌を歌い始めた。


小夜啼鳥恋詩。そのワンフレーズ。


「あなただけのために」


真姫「…っ!」

希『…なんか、気分が…?』

真姫「…だめだわ…身体のちからが抜けて」

希『…真姫ちゃん?』

真姫「歌…うたを、きいちゃダメよ…希、早く…電話を、切って…」

希『真姫ちゃん? 真姫ちゃん!』

真姫「いいから早く切りなさい! きっかけはきっと、この歌…むぐっ!」

海未「しずかにききましょう、まき」

穂乃果「そうだよ ほら、きもちよくなっていたでしょ?」


海未と穂乃果に口を抑えられる。


ぶつっ。


でん話が切れた。


…これでいい。
39:2016/01/18(月) 23:59:20.01 ID:
両手両足にかかっていた力が抜ける。


この歌だ。


このうたがきっと、ことりに憑りついた「なにか」の能りょくであり、穂乃かとう未、花よや凛がこうなった原いん…


私がきづけたんだから、希だってちゃんと気づけるわよね。


…あたまがフワふワしてきた。



「うたいたいの いまのメロディー」


おとりのやく目ははたしたわ。


あとはたのんだわよ、のぞみ…


…のぞみ?


のぞみ

わたし

えり

にこちゃん

ほのか

うみ

りん

はなよ

ことり

みゅーず



「それは こいのうた」
40:2016/01/19(火) 00:01:53.26 ID:
…真姫ちゃんに言われるまま、電話を切ってしまった。



あの歌。



ことりちゃんの声は脳を溶かす、なんてファンの間で囁かれてるらしいけど…


本当に溶かしているのかもしれない。


…歌で人を惑わす怪異も、色々いるけれど…今回は――――




にこ『…どうしたのよ、希?』

希「もしもし、にこっち? あのさ、にこっちって…」


にこっちに電話して、使っている「ブツ」の種類を聞く。


にこ『え? えーっと…』


にこっちの使っている「ブツ」は、うちの探しているものとぴったり合致していた。


希「よしっ、ナイスや!」

にこ『は?』

希「ねえ、にこっち! 今からそれ、借りに行ってもいい?」

にこ『なんでよ』

希「…にこっちがいつも聞いてる曲がどんなものか、教えてほしくて!」

にこ『…な、なによ、やぁ~~~~っと希も、アイドルの素晴らしさがわかってきたのねぇ~~~~!』

希「そういうのいいから。とにかく行くから、用意して待っとって」

にこ『しょ~~~~~がn』


ぶつっ。


にこっちは語り出すと止まらないので、そこそこのところで電話を切る。

…さあ、にこっちの家に急ごう。
41:2016/01/19(火) 00:03:26.11 ID:
にこ「いらっしゃい」


にこっちがドアから顔を出す。


希「例のブツは?」

にこ「ブツって…これよ。…まあまあ、そう焦らないで、まずはこの」

希「ありがとっ!」

にこ「アルバムから…えっ、ちょっ、希!?」


にこっちの手から「それ」をひったくる。


やんやん、家までダッシュ。ごめんで東條!



ということで、ことりちゃんの家にやってきた。


ぴんぽーん。


チャイムを鳴らす。


ことり『はぁ~い』

希「ことりちゃん? うち、希やで~」

ことり『希ちゃん?』


ぱたぱたと足音が聞こえ、ドアが開く。


ことり「希ちゃん! どうしたの?」

希「…あはは、ちょっとことりちゃんと直接会ってお話ししたくて」

ことり「ほんとに? 嬉しい…じゃあ、あがっていいよっ」

希「ありがとな~」
42:2016/01/19(火) 00:05:18.24 ID:
ことりちゃんの家に上がる。


ことり「…それで、お話って?」

希「…真姫ちゃんたちはどこ?」

ことり「…もしかして、希ちゃん…真姫ちゃんたちを、連れて帰ろうとしてるの?」

希「…話が早いね」

ことり「…駄目だよ」

希「駄目と言われても、うちはそのためにここに来たし」

ことり「…」

希「…で、どこにおるん? みんなは」

ことり「…隣の部屋だよ」

希「そっか。ありがと」

ことり「…」


立ち上がり、ことりちゃんの部屋を出る。


…隣の部屋のドアを開けると、薄暗い部屋の中で、死んだ目で笑う真姫ちゃんがお出迎えしてくれた。


真姫「あら、のぞみもきたのね」

希「や、真姫ちゃん。お待たせ」
43:2016/01/19(火) 00:06:39.00 ID:
真姫ちゃんを見ていると、


凛「のぞみちゃんだ」

穂乃果「やっときたぁ」

希「あらら、凛ちゃんに穂乃果ちゃん」


後ろからふらふらと、凛ちゃんと穂乃果ちゃんも迎えてくれた。


花陽「みんなずっといっしょだよ」

海未「おそかったですね なにしてたんですか」

希「ふむふむ」


海未ちゃんと花陽ちゃんも、うちを歓迎してくれているみたい。


背後に気配を感じて振り返る。



ことり「…すぅっ」



ことりちゃんが息を吸い込むのが見えた。



「かごのなか とじこめて」


…真姫ちゃんは、歌を聴いちゃダメって言ってたなぁ。


「あなただけのために」


…ことりちゃん、歌いはじめちゃった。


「うたいたいの いまのめろでぃー」





「それは こいのうた」



ことり「…うふふっ♡」
44:2016/01/19(火) 00:09:46.11 ID:
希「…あ、終わった?」


ことり「…えっ…!? な、なんで歌が…!?」


希「歌に秘密があるとしても…聞かなければ、そんなのは関係ないやん?」


ことり「それっ…」


ポケットから、にこっちに借りてきた「ブツ」を取り出す。


ウォークマン。


うちは家を出る前、真姫ちゃんに貸しだしたのと同じコードレスのイヤホンを耳に装着。

そして、ことりちゃんの部屋を出る直前、音量を上げまくったウォークマンの再生ボタンを押した。

いやー、耳が痛かった。

にこっちの聞いてるアイドルソングが頭にガンガン響いてた。

正直キツかった。


ことり「それを止めてっ!」


ことりちゃんが何か言っている。でも大音量で歌を聴いてるので、相手が何を言っているかわからない。

痺れを切らして飛びかかってきたことりちゃんを軽く受け流し、うちは薄暗い部屋の中に入る。

ことりちゃんの歌を聴いたみんなはうっとりとした顔で、幸せそうに自分の世界に浸っている。

邪魔されなくて都合がよろしい。

…さてさて、ドリームトリガーはどこいったかな。

ことりちゃんに没収されてないといいんやけど。
45:2016/01/19(火) 00:11:54.55 ID:
ことり「…希ちゃん、曲を止めて。じゃないと…」

希「…ないなぁ」

ことり「…希ちゃん?」

希「…ねえ、真姫ちゃん? ドリームトリガーはどこにやったん?」

ことり「希ちゃんってば!」

希「ねえ、真姫ちゃ~ん」

ことり「…」


いつもならウザがられるレベルの絡みを真姫ちゃんにしていると、トントンと肩を叩かれる。


希「あ、ことりちゃん。うちのこと呼んでたんや、ごめんごめん…あっ」


振り向くと、ドリームトリガーを構えたことりちゃん。


ははぁ、なるほど。回収されちゃってたか。


ことり「…早く曲を止めてっ。撃っちゃうよ」

希「あ、ごめん。なんて言ってるかわからんなぁ」


曲を止めようにも、また歌い出されても困るし。


ことり「~~~ッ!! もうっ! もうっ!!」


ことりちゃんは可愛い仕草でぷんすか怒った後、耳の聞こえないうちの為にスケッチブックを持ってきてくれた。


ことり『歌を止めて! じゃないと撃っちゃうよ!』


と、可愛い文字で書いてある。


希「ほほう。その銃で、うちを撃つと」


ことりちゃんはコクコクと頷く。


希「撃てばええやん?」

ことり「えっ…」
46:2016/01/19(火) 00:13:06.51 ID:
希「それでことりちゃんが満足するなら、うちを撃てばいいやん」

ことり「そ、それは…」

希「うちは脅しになんて屈しないよ。曲は止めない」


そもそもその銃に怯える理由がないし。


ことり「…」

希「…じゃあ、こうしよう? その銃をこっちに渡してくれたら、曲を止めてあげる」


ことり『本当に?』


泣きそうな顔でスケッチブックを見せ、そしてうちの顔を見つめることりちゃん。…憑りつかれてても可愛いって、罪やなぁ。


希「ホントホント。うち、約束は破らへんよ」

ことり「…わかったよ」


ことりちゃんはこっちに近づいてきて、しぶしぶドリームトリガーを渡してくれた。
47:2016/01/19(火) 00:15:43.59 ID:
希「ん、ありがと。約束通り、曲は止めるね…あ、でもこの銃のせいで手がふさがってるから、ことりちゃん止めてくれへん?」


怪我した腕を挙げ、ことりちゃんにアピール。

別にドリームトリガーを仕舞えばいいんやけど、ことりちゃん、優しいから。

頼まれたことは、ほとんど断らない。


ことり『どのポケット?』


希「胸のポケットやで~」


うちの胸ポケットをまさぐることりちゃん。


希「やん、恥ずかしい♡」


ウォークマンを見つけ、少し嬉しそうなことりちゃん。

ことりちゃんはその停止ボタンを押し、「ピッ」という停止音が鳴る。


停止ボタンが押されるのと同時に、トリガーを引く。


その直後に、ことりちゃんが床とごっつんこした音が聞こえた。


希「ふーっ…」


少しかっこつけて、ドリームトリガーの銃口に息を吹きかける。ちなみに、ドリームトリガーから硝煙は出ない。

…物語の結末っていうのは、意外とあっさりしたものなんよ。










その後、ことりちゃんを含めてみんな、無事正気に戻った。

ことりちゃんはやったことを覚えているらしく、顔を真っ赤にして皆に謝りまくっていたけど…

当の皆はというと、歌を聴く直前のことまでしか覚えてないらしい。

凛ちゃんと真姫ちゃんは苦笑しつつ慰めの言葉をかけ、穂乃果ちゃん、海未ちゃん、花陽ちゃんは頭にハテナマークを浮かべている。

ま、平和に終わってよかったよかった。

…っと、まだもうちょっとだけ、仕事が残ってたね。
48:2016/01/19(火) 00:24:16.24 ID:
ことり「…その、お話って、えっと…」

希「あ、そんなに硬くならんくてもええよ」

ことり「う、うん…」

希「ほら、食べて食べて。せっかくのチーズケーキ、乾いちゃうよ?」


うちはことりちゃんを連れて、近くのファミレスに来ていた。

別にお説教するわけじゃない。お説教されなくちゃいけないのは真姫ちゃんだ。


ことり「…」

希「美味しい?」

ことり「…うん」

希「それはよかった」


にひひ、と笑ってみせる。

すると少し安心したように、ことりちゃんも笑い返してくれた。

よかったよかった。


希「それでね、お話なんやけど」

ことり「うん」

希「…ことりちゃん、最近神田明神に行かなかった?」

ことり「あ、行ったよ…昨日の夜」

希「…そこであったこと、話してもらっても、ええかな?」

ことり「…うん」
49:2016/01/19(火) 00:29:05.52 ID:
ことり、みんなと別れた後…一人で神田明神に行ったんだ。

あのくらいの時間になると、もうあんまりお客さんもいなくて…って、これはどうでもいいよね。

…あの時は、お願いごとをしに行ったんだ。


―――――「μ`sのみんな」と、ずっと一緒にいられますようにって。


あの日まで、みんなのことを気にもしないで、穂乃果ちゃんと遊び歩いていて…

久しぶりに部室に行ったそんな私を、みんなは嫌な顔ひとつしないで、許してくれて。

…なんで、穂乃果ちゃんのことばかりしか見ていなかったんだろう。

自分でも理由はよくわからないけど、悪いのはことりだ、って反省して…

これからは、前と同じように、μ`sのみんなのことを大好きなことりで居たいと思って。


だから神様に、ちょっと手伝ってください、って…お願いしたの。


…そしたら、階段を下りる途中で、歌が聞こえて。


すごく綺麗な声で…


その声を聴いたら、なんだか気分がフワっとして。


ことり「そこからは、希ちゃんも知ってるとおり…あんなことを…ううぅ」


顔を真っ赤にして俯いてしまった。


希「…ふむ、なるほど。ありがとう、ことりちゃん。おかげでいろいろわかったよ」

ことり「…あの、ことりは…」

希「大丈夫、ことりちゃんは何も悪くないんよ。悪いのはその、歌を歌う怪異」

ことり「かいい…?」

希「…怪物、やね。…セイレーン、っていうんやけど」
50:2016/01/19(火) 00:38:43.26 ID:
~のぞみん講座 セイレーン編~


それじゃあ今回は、セイレーンについて説明するよ。


セイレーンは…

・半分が人間、もう半分は鳥の、海の怪物。…海未ちゃんじゃないよ?
・海の岩礁から美しい歌声で人を惑わす。
・歌声に魅惑されて海に飛び込んだ人を食い殺す。その骨は、島に山をなしたという。
・彼女の歌を聴いて、生きて帰れる者はいない。

…って感じの、外国の怪物。


で、セイレーンに関して、二つほどお話を紹介させてもらいたいんやけど。


まず一つ目。

――船旅の帰路、セイレーンの歌を聞きたがった人がいた。

――その人は自分の身体をマストに縛らせ、船員には蝋で耳栓をさせ、セイレーンの歌を聞いた。

――彼はセイレーンの歌を聴いて、海に飛び込もうと暴れ出すが、縛られていて身動きはできない。

――船員は歌に惑わされているのだと判断して船を進める。彼らは無事に帰還した。

――歌で惑わせなかった人間が現れたら死ぬ運命となっていたセイレーンは、海に身を投げて自殺した。



もうひとつのお話。

――小さなセイレーンは、海の真ん中でさみしく、一人で暮らしていた。

――彼女の歌声はとても素晴らしく、船乗りはみんな彼女に会うために海に飛び込む。しかし、たどり着く前に溺れ死んでしまう…

――ある日、とある船長が、セイレーンを引き上げる方法を見つけた。

――船員全員分のウォークマンを用意し、耳に入れる。

――こうして誰一人海に身を投げることなく、静かに彼女の元に辿り着き、ボートに乗せて帰った。それ以降、オペラ座では毎日、彼女の歌声が響いている。



どちらにも共通しているのは、「人を魅了する歌声を持っている」ということ。

違うのは、歌う目的。

前者のセイレーンは人を魅了して食べちゃうため。

後者は、寂しさを紛らわすため、人間に近づいてきてもらうため。
51:2016/01/19(火) 00:42:48.02 ID:
今回のことりちゃんの場合は、後者やね。


…ただ、みんなと一緒に居たい。ただそれだけ。

μ`sへの愛、みんなとずっと一緒に居たい、という気持ちを、憑りついたセイレーンに利用されかけていた。

でも、ことりちゃんは逆に能力を利用して、その想いを実現させていた。

つまり、怪異の力を完全に自分のモノにしてた、ってことやね。

…いやぁ、凶暴な怪異じゃなくてよかった。



あ、ちなみに対策について。

・曲を聞かなければいい。
・曲を聴いても、惑わされなければいい。

…長々と喋っちゃったけど、結局この2つに尽きるわけやね。

うちがウォークマンを用意したのは、曲を聞かないため。

お話の中に、「ウォークマン」って単語が出てくるくらいやから、こだわってみた。

もしかしたらipodとか、他の機種でもよかったのかもしれんけど。



…ちょっと今回は、あんまり参考にならない感じだし、スリルも少ないお話になっちゃった…ごめんな~。


…というわけで、のぞみん講座でした。
52:2016/01/19(火) 00:47:10.77 ID:
ことり「セイレーン…」

希「そう。今回、ことりちゃんに憑いてた悪い怪異。…それに、ことりちゃんが穂乃果ちゃんにお熱だったのも…」


ここまで話しちゃったし、どうせならスッキリさせといたほうがいいかな~って思って、穂乃果ちゃんの件から今回の事まで、詳しく説明してあげた。

うんうん、と一生懸命相槌を打ってくれたり、驚いたり、笑ったり、色々反応してくれていた。…ことりちゃんは聞き上手やなぁ。


ことり「そ、そうだったんだ…穂乃果ちゃんと、凛ちゃんも…で、でも、それでも、やっぱり、ことりは悪いことをしちゃったし…」

希「…んー、そこまで言うんやったらしゃあない」

ことり「…どうす…ぴゃぁっ!?」


うちはわしわしマックスを解禁した。

今日の昼頃に封印を検討していたような気がするけど、別にそんなことはなかった。

ことりちゃんにするのは初めてだっけ?


希「…ん~、いい揉み具合?」

ことり「なっ、ななな…なんで…」

希「…仕返しや」

ことり「…仕返し?」

希「そ、仕返し。ことりちゃんがセクハラしてきたから、うちもセクハラ。これでおあいこやろ?」

ことり「希ちゃん…」

希「はい、これでうちは許したってことでええよね?」

ことり「…セクハラって自覚、あったんだ」

希「あ…それは、言葉の綾ってことで」

ことり「…うふふっ」

希「ふふっ」

ことり「…ありがとう、希ちゃん」

希「お礼なんてええって。ま、他のみんなにどうするかは…ふふっ」

希「明日、考えよか。朝、迎えに行ってもええかな」

ことり「そこまでしてもらわなくても…」

希「まあまあ、アフターケアもゴーストバスターのお仕事やから。うちに任しとき!」


…とカッコつけて、お店を出た。

…さてさて、最後のひと仕事に向けて準備しますか。
53:2016/01/19(火) 00:48:16.67 ID:
次の日の朝。


希「やあやあ、ことりちゃん。おはよう」

ことり「おはよう、希ちゃ…あれ?」

真姫「おはよう、ことり」

絵里「今日は随分とゆっくりね」

穂乃果「えー、でも穂乃果よりは早いよ?」

海未「あなたが遅いんです…」

凛「そうにゃそうにゃ! 凛より早起きにゃ!」

花陽「あはは…凛ちゃんも、もう少し早く起きようね…」

にこ「はいはい、いつまでもここでコントしてる場合じゃないわよ。近所迷惑でしょ」

希「ほな行こか~」

ことり「え…」


何が起こったのかわからない、といった顔のことり。


凛「ねえねえ、ことりちゃ~んっ」

ことり「ぴゃぁっ!?」


凛がことりに抱き付き、頬ずりしている。ことりは変な声を上げて顔を赤くしている。


凛「凛、お菓子作りの勉強したいんだけど…ことりちゃん、教えてくれるかにゃ?」

ことり「い、いいけど…」
54:2016/01/19(火) 00:49:38.87 ID:
絵里「…凛、一人だけ抱き付いてずるいわよ!」

花陽「わ、私もーっ…!」


ぎゅーっ。


花陽と絵里も、ことりに飛びつく。


ことり「ふぇええええ…???」


にこ「…まったく、朝からベタベタ暑苦しいわね」

海未「ふふっ、そうですね」

真姫「にこちゃんも行けば?」

穂乃果「そうだよっ! さあにこちゃん、いくぞーっ!」

にこ「え? の、のわあぁ~っ!!」

穂乃果の勢いに巻き込まれるにこちゃん。


希「ほらほらっ、海未ちゃんと真姫ちゃんもーっ!」


そして、海未と私の手を取ってことりに突撃する希。


どしゃあああ。


勢い余って、全員巻き込んで倒れてしまった。



絵里「つ、潰れる…」

凛「希ちゃん、勢い付けすぎにゃ!」

希「あはは、ごめんごめーん」


…なんて、みんなで朝から大騒ぎ。
55:2016/01/19(火) 00:52:41.75 ID:
ことり「…ね、ねえ、みんな」


みんなそれぞれに立ち上がったところで、ことりが切り出す。


ことり「…なんで? …ことり、昨日、あんなこと…しちゃったのに…」

凛「えっへへー…仕返しだよっ」

ことり「へ…?」

絵里「そうよ、ことり。みんな好き放題やられたんだから、その仕返し」

ことり「…希ちゃん」

希「にひひ」

真姫「ことり」

ことり「?」

真姫「ことりは私たちのこと、好き?」

ことり「え…」


ことりは少しモジモジとして、私の質問に答える。


ことり「…だいすき、だよ…」


小鳥のさえずりのような小さな声だったけれど、その言葉と気持ちはみんなに届いたみたいで。


海未「なら、それでいいじゃないですか」

穂乃果「そうだよっ! 私たちも、ことりちゃんのことだ~い好きだもんっ!」

花陽「もちろん、μ`sみんなのこともねっ」

にこ「…昨日ははしゃぎたかったんでしょ?」

ことり「へ?」

にこ「希から聞いたわよ」

凛「希ちゃんも、ももう少し考えてほしかったにゃ!」

希「はーい、ごめんなさーい」

絵里「ことりも。希にそそのかされたからって言って、やりすぎは禁物よ? 節度を持ってね?」

ことり「は、はぁ…?」
56:2016/01/19(火) 00:55:24.11 ID:
海未「ことりはいつも、一人で抱え込むから…」

穂乃果「もっと私たちを頼っていいんだよっ!」

ことり「…みんな」


みんな、ことりの顔を見て笑いかける。

ことりは安心したみたいで、ふにゃっと笑みをこぼす。


希「…ことりちゃん。うちらはどこにも行ったりしないよ。みんな、ずっと一緒や」

ことり「希ちゃん…」

真姫「…ここにいるみんなが、あなたと同じ気持ちよ。μ`sのことが、大好きなの」

ことり「真姫ちゃん…」

希「…よーしっ、皆のものかかれーっ!」

「「おーっ!!」」

ことり「やっ…やぁ~ん♡」


希の号令で、再びみんながことりに襲い掛かる。

ことりは、幸せそうに悲鳴を上げていた。



…タネ明かし…というわけでもないけれど。

昨日の夜、ことりと別れた希からメッセージが届いた。


ことりが、ストレスを溜めこんでいたこと。

それを爆発させてみたらいい、とアドバイスしたのは自分だということ。

ことりもやりすぎたと反省しているようだし、明日の朝みんなで仕返しして、チャラにしよう―――――と。


凛と私には、「ってことにしといてな♪」という一文が追加されていたけれど。

ことりから皆に怪異のことを話させるのも面倒だし、これが妥当な落としどころかしらね。



…ま、みんなμ`sのことが大好きだってことも、改めて認識できたし、ことりも幸せそうだし。

ハッピーエンドね。



…あ。

希からのお説教が待ってること、忘れてたわね。
57:2016/01/19(火) 00:56:08.78 ID:
おわり
58:2016/01/19(火) 00:58:58.50 ID:

今回も面白かった
60:2016/01/19(火) 01:10:39.78 ID:
ありがとうございました
前回からの間に物語シリーズを色々見てしまい、書く上で影響されないようにしよう…
と思いながら書いてたら、逆に意識しすぎてあんまりうまく書けなかったような気がします…

にこ編も半分くらい書いたので、書き溜め全部終わるまでこのスレ残ってたら、ここでそのまま書いていきます
65:2016/01/19(火) 09:45:26.91 ID:
良い にこ編も期待
68:2016/01/19(火) 17:32:37.85 ID:
やはりこのシリーズは面白いな
69:2016/01/19(火) 20:16:10.13 ID:
もうひとひねりあると良かったかな
前二作は文句なく好き
74:2016/01/20(水) 18:05:10.85 ID:
物語シリーズ的につけると
穂乃果ヴァンパイア
凛キャット
ことりセイレーン

こんな感じか
果たしてにこは…

とりま乙
77:2016/01/21(木) 22:41:25.54 ID:
再開します
78:2016/01/21(木) 22:44:49.00 ID:
金曜日の放課後。

私は希の家で正座していた。

前回の事件のことで、お説教を食らうために。



希「…ひとまず、ありがとう。…真姫ちゃんのおかげで解決の糸口がつかめたからね」

真姫「…」

希「…でも」


ぴしっ。

デコピンをくらう。


真姫「いたっ」

希「言うこと聞かないで飛び出してった罰!」

真姫「…はい」

希「今回はよかったけど…歌を聴いた皆が元に戻らんかったかもしれないんよ?」

真姫「…」

希「真姫ちゃんやうちの推理が間違えてて、μ`sみんな骨抜きにされちゃった可能性だってあったんよ?」

真姫「それは…」

希「っていうか真姫ちゃん、初心者のくせに無茶しすぎ!」

真姫「だって…」

希「なによ」

真姫「…憑りつかれたみんなのこと…あと、あなたのことを考えたら、身体が動いちゃったのよ」

希「あなたって?」

真姫「あなた以外に誰がいるの? 希だけど」

希「…う、うちの事を考えてって…」


突然どもる希。
79:2016/01/21(木) 22:46:11.01 ID:
真姫「…何?」

希「な、なんでもないよ。えっと…そう! 慣れないうちに無茶しちゃダメって話!」

真姫「…だったら、希も無茶するのやめなさいよ…穂乃果の時、死にそうだったじゃない」

希「…うちはいいの、うちは」

真姫「何がいいのよ」

希「…あー、えっと」

真姫「…」


言葉に詰まっているようだった。

1分くらい悩んだ後、希の出した結論は…


希「…やめ! お説教やめやめ! やっぱり、こういうのはうちのキャラやないね」

真姫「はぁ…?」


諦めだった。



希「これでお説教は終わり! とにかく真姫ちゃん、あんま無理しないようにね!」

真姫「…わかったわよ」

希「うちの目を見て言って」

真姫「…わかりました」


じっと希を見つめ、返事する。


希「ん、ならよし」


笑顔でポンポン、と私の頭を撫でてくる。

…あまり頭を撫でられたことがないので、少し嬉しい。


希「…あ、そうだ」

真姫「?」


希はたっぷり間を取って、いつになく真剣な声色で、




希「うち、明日からちょっと、この街を離れるから」
80:2016/01/21(木) 22:52:36.83 ID:
真姫「…は?」


あまりに急な希の発言に唖然とする。


希「だからその間、パトロールとかいろいろ…よろしくね、真姫ちゃん」

真姫「ちょ、ちょっと待ってよ…あなた、急すぎるわよ…!」

希「…ごめんね」

真姫「み、μ`sは…どうするの…?」

希「やめへんよ」

真姫「で、でも…」


希「だって、明日からの三連休だけやし」


真姫「…は?」


希「いや、だから、今週末の三連休。ちょっとお母さんのところに行ってくるんよ」


真姫「…」


希「どう? 騙された?」





にひひ、と笑う希の頬に平手をお見舞いし、私は東條家を後にした。






希「…なかなか強烈やなぁ」
81:2016/01/21(木) 22:55:54.10 ID:
真姫「…サイテーよ」


まったく。

あんなイジワルな嘘…厳密には嘘じゃないけど。

家への道をぷんすか歩いていると、絵里とすれ違った。


絵里「あら、真姫。不機嫌そうね」

真姫「…ちょっとね」

絵里「もしかして…また希?」

真姫「…なんでわかったの?」

絵里「なんとなく、ね。真姫、最近希と仲いいから」

真姫「え、ええ、まあ…」

絵里「ふふっ、メンバーの仲が深まるのはいいことだわ。希のこと、よろしく頼むわね」

真姫「…ええ」


悪戯っぽく微笑む絵里。

ちょっとドキリとする。

…これが大人の魅力?


絵里の表情にドキドキしていると、「あ、そうだ」といつもの柔らかい顔で話を切り出してきた。


絵里「そういえば真姫、最近にこと出かけたりした?」

真姫「にこちゃん? なんで?」

絵里「あの子、最近すごい運なのよ」

真姫「ふぅん…?」


そういえば、この前も部室で色々話してたわね。※


絵里「この前、一緒に原宿に出かけたんだけど…」
82:2016/01/21(木) 22:56:44.36 ID:
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


にこ「…ん?」

絵里「どうかしたの?」

にこ「財布が落ちてたのよ」

絵里「大変だわ…交番に届けないと」



男「財布! 財布だよ、茶色の二つ折りの…」

警官「そう言われましても、届いておりませんし…」

にこ「すみませーん、竹下通りのところでお財布拾ったんですけど…」

男「あぁっ!! それは私の財布だ!!」

にこ「へ? あ、はい」

男「キミが拾ってくれたのかい、ありがとう! これ、少ないがお礼だ。二人で何か美味しいものでも食べてくれ。それじゃあ!」

にこ「…って、うぇえ!? い、いちまんえん!?」

絵里「は、ハラショー…こんなに貰っちゃってよかったのかしら」
83:2016/01/21(木) 22:58:13.54 ID:
にこ「あ、絵里。このお店とかどう?」

絵里「ん、いいわね。入ってみる?」

にこ「そうしましょ。お腹も空いたし…」


きんこんかんこーん。


店員「おめでとうございます! 記念すべき来店1万人目のお客様でーす! お好きなメニュー、どれでも無料でご提供いたします!」

絵里「え?」

にこ「すごいじゃない、絵里!」

絵里「は、ハラショー…! にこのラッキーパワーのおかげかしら…!」

にこ「ふ、ふふん? まあね?」



にこ「あ、ああぁぁぁっ!!」

絵里「どっ、どうしたの!?」

にこ「さ、さっき買ったブロマイド開けたんだけど…ほら!」

絵里「えっと…何?」

にこ「限定50枚しか生産されてない、別カットverの水着ブロマイドなのよ…!」

絵里「へえ…すごいの?」

にこ「すごいなんてもんじゃないわよ! 世界で50枚よ!?」

絵里「それはすごいわ…! さすがにこね!」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
84:2016/01/21(木) 23:03:09.69 ID:
絵里「…って感じで…とにかく幸運続きだったのよ」

真姫「たまたま…にしては、すごすぎるわね」

絵里「ええ…あの子、よっぽどツイてるのね」

真姫「…」

絵里「…あっ、いけない! もうこんな時間だわ…亜里沙が待ってるんだった。…じゃあね、真姫!」

真姫「え、ええ。じゃあ…」


手を振りながら走り去る絵里に、手を振り返す。



"ツイ"てる。


"憑い"てる。


…なんてね。


さすがに考えすぎかしら。


でも、そう考えるのも無理はないと思わない?


ここ最近、立て続けに3件も、常識外れなことに巻き込まれてるわけだから。


…でも、それでも。


私の考えすぎ、よね?
91:2016/01/22(金) 17:28:15.62 ID:
土曜日。


特筆するようなこともなく、私はいつも通り勉強を終わらせて、部屋のベッドで寝ころんでいた。

ふと、昨日の帰り際に聞いた絵里の話を思い出した。

…にこちゃんの、異常なまでの幸運。



…色々と考えを巡らせていると、静かな部屋にスマホの通知が響く。

にこちゃんからの個人チャットだった。


< 真姫、今なにしてる~?

特に何も。

< じゃあ、お買い物付き合ってくれない?

買い物?

< そうなの。今日ママの誕生日だから、夜帰ってくるまでにプレゼントを買いに行きたいの

ふぅん。私でいいの?

< ぜんぜんいいよ! 真姫ならまともなセンスしてそうだし!

わかったわ。いいわよ

< ありがとニコ~♡ じゃあ、今から真姫ちゃん家向かうね~

準備して待ってるわ。



…そんなこんなで、にこちゃんと出かけることになった。

いい機会だわ。

にこちゃんの幸運、どれほどなのか確かめてきましょ。
92:2016/01/22(金) 17:31:45.57 ID:
にこ「お待たせー」


身支度を済ませて門を出たところで、ちょうどにこちゃんがやってきた。


真姫「早かったわね」

にこ「まあねー」

真姫「…にこちゃん、赤い服ね…珍しいような」

にこ「ふふ~ん、でしょ~? 最近は清楚系を目指して白い服ばっかりだったんだけどぉ、今日は真姫ちゃんを意識して赤い服にしてみたのよ~。似合う?」


よくもまあ、ペラペラと言葉が出てくるものだわ。


真姫「…まあ、似合うんじゃない?」

にこ「ふふっ、ありがと! それじゃ行きましょ!」


ぎゅっと手を握られ、あまり強いとは言えない力で引っ張られる。

にこちゃんってば、はしゃいじゃって。まるで子供みたい。

…いつもこう素直なら、もっと可愛いのにね。








しばらく歩いて、デパートに到着した。

そういえばこの前、凛と花陽と一緒に来たところもここだったわね。



にこ「ねえねえ、似合う~?」

真姫「…似合うんじゃない?」

にこ「ちょっと、何よその言い方ーっ!」

真姫「別に…」



ありのまま起こったことを話すわ。

にこちゃんのお母さんのプレゼントを選んでいたと思ったら、にこちゃんのファッションショーが始まっていた。

やれやれだわ。
93:2016/01/22(金) 17:35:17.85 ID:
真姫「…ねえ、プレゼント選びはいいの?」

にこ「細かいことはいいでしょ! ね、真姫」

真姫「何よ」

にこ「せっかくだし、何かお揃いの服買いましょうよ」

真姫「い、いやよ、恥ずかしいわ」


友達とお揃い…

…本当はちょっと欲しい。


にこ「いいじゃないのよ、せっかくのデートなんだから」

真姫「…で、デートぉっ!?」


声が裏返ってしまった。


にこ「な、何よ、うるさいわね…二人で買い物なんて、デートでいいじゃない」

真姫「そ、それは何か違…」

にこ「いーからっ! はい、欲しいの選んできて!」


にこちゃんの勢いに押され、私も服を選ぶことになった。

…にこちゃんって、やっぱりちょっと面倒。


真姫「じゃあ、それ」

にこ「?」

真姫「今にこちゃんの着てたそれ。それがいいわ」

にこ「…そう?」

真姫「ええ。見てきた中では、それが一番かなって」

にこ「そっかー…じゃあ、にこはこの赤で、真姫ちゃんはこっちのピンクね」

真姫「なんでよ」

にこ「お互いのカラーだから?」

真姫「…」


それってお揃いよりも恥ずかしいでしょ。

お互いのこと意識してますアピールなわけ?

恥ずかしいにも程があるわ。
94:2016/01/22(金) 17:36:01.35 ID:
にこ「真姫ちゃんも素直じゃないわね~」


ついお買い上げしてしまった。


真姫「ふんっ…」

店員「えーと、ただいまお客様感謝キャンペーンをやっておりまして」

にこ「はい?」

店員「一階の福引きコーナーにレシートをお持ちいただくと、最大5万円のキャッシュバックをしておりますので」

にこ「はぁ」

店員「ありがとうございましたー」



真姫「キャッシュバックだって」

にこ「やってみる?」

真姫「私は別にお金には困ってないし、どっちでもいいわよ」

にこ「…腹立つわね」


にこちゃんはムスッとした顔で、ツカツカと一階に降りていった。
95:2016/01/22(金) 17:39:16.83 ID:
からんころーん。

店員「おめでとうございます! 一等、5万円分の商品券になりまーす!」


…にこちゃん、見事に一等賞を一発ツモ。




にこ「いやー、自分の幸運が怖くなるわね~♪」


ゴキゲンなにこちゃん。


にこ「丁度いいわ。今日からもう使えるみたいだし、豪華なもの買っちゃお~♪」

真姫「よかったわね」

にこ「うんっ! 最近本当にツイてるにこね~」

真姫「…ねえ、にこちゃん」

にこ「ん~?」

真姫「…最近、変わったこととか無かった?」

にこ「変わったこと?」

真姫「ええ。なんでもいいの、小さなことでも」

にこ「…んー、特には思いつかないわね。なんで?」

真姫「いえ…なんでもないわ」


ルンルン気分なにこちゃんは商品券を片手に、お母さんへの誕生日プレゼントにアクセサリーや洋服をたくさん買っていた。

ここぞとばかりに、こころちゃん達へのプレゼントまで買っていた。


そして、レシートを福引きに持っていく。


…また当たった。


店員「お、おめでとうございます! またまた一等賞です!」




お金を使えば、その分戻ってくる。

錬金術か何かかしら。


…流石に2回も一等賞をもらうのは気が引けたのか、にこちゃんは商品券を受け取るのを辞退した。
96:2016/01/22(金) 17:43:58.21 ID:
にこ「あそこまでラッキーだと後が怖いわね…」

真姫「本当ね…自称ラッキーガールの希でも、あそこまではできないわよ」


商品券の代わりに、三等賞の映画ペアチケットを貰った私たちは映画館まで来ていた。



にこ「真姫、映画とか見る?」

真姫「ううん、あまり見ないわ」

にこ「そっかー。どういうジャンルが好きとかも、特にない?」

真姫「ええ、特に」

にこ「じゃあ、にこの観たいやつでいいかしら」

真姫「いいわよ、何でも」




…なんでもいいと言ったのは少し間違いだったかしら。


にこちゃんが推してる(推すって何?)アイドルが出ているらしい映画を見ることになった。



ストーリーは、ありきたりなパニック映画。

ゾンビから逃げ惑う9人の男女。

色々あって、恋人同士の男女が2人だけ残る。

気弱な男は、最期くらいカッコつけたがったんでしょうね。

女を助けるために、崩れる廃ビルにゾンビをおびき寄せて瓦礫の下敷きに。

最後は女が悲しみを乗り越えて、一人で勇敢に生きていく…なんて話。
97:2016/01/22(金) 17:45:53.83 ID:
…あまり映画とか観ない私でもわかる、質の低い作品だった。

メイクも演出もチープだし。

ゾンビとかホラーとか苦手な私でも見れちゃうくらいのやつ。

正直、退屈だった。


ただ、にこちゃん推し(自分の好きなメンバーを応援することを、推す、って言うらしいわ)のアイドルが、その最後に残った女だったらしく、ご満悦のようだった。


にこ「いやぁ~…いい映画だったわ」

真姫「そうだった…?」

にこ「まあ、演出とかは微妙だったけど、ソラちゃんの出番が多くて満足満足♪」

真姫「…そ」


ま、にこちゃんが幸せそうだし…別にいいか。
98:2016/01/22(金) 17:56:54.19 ID:
にこ「さー真姫、勝負よ!」

真姫「…なにこれ?」

にこ「知らないの~? メダルゲームよ、メダルゲーム」

真姫「ふぅん…」


映画の後、ゲームセンターにやってきた私たちは、何故か対決することになっていた。

ゲームの内容は至極簡単。

メダルを入れて数字と色を選ぶ。賭けたところにボールが入ったら、その倍率分加算されてメダルが帰ってくる。



真姫「赤の8番」

にこ「じゃあ…赤の2番!」


ぶぶー、はずれー。


真姫「…」


頭に来る音声ね。



真姫「…赤の1番」

にこ「黒の5番!」


ぴんぽんぴんぽーん! おおあたりー!

じゃららららら。


私の席のメダル取り出し口に、100枚ほどメダルが出てきた。


真姫「…ふふっ」


"どやがお"をキメてあげる。


にこ「ぐ、ぐぬぬ…まだ、まだよ!」



なんだ、やっぱり気のせいじゃない。

こんな運要素しかないゲームに負けるなんて、にこちゃんの幸運も大したことないわね。

最近いろいろありすぎて、感覚がマヒしてたんだわ。
99:2016/01/22(金) 18:01:06.16 ID:
にこ「もう一回! もう一回!」

真姫「…しかたないわね」


どうしてもというので、最後のルーレットゲーム。

まったく、負けず嫌いなんだから。


…何よ、その目は。


真姫「…じゃあ、黒の6番」

にこ「じゃあにこはー…赤の2番!」


どじゃあああああああ。


にこちゃんの席のメダル取り出し口にはメダルが山を成していた。


にこちゃんが賭けたメダルは100枚。倍率は10倍。

1000枚のメダルが飛び出してきた。



真姫「…これ、どうするの?」

にこ「…て、適当に使えば減るんじゃない…?」




ゲームセンターにあるメダルゲームで、適当にメダルを使った結果。


所持メダルは10倍にまで膨れ上がった。


にこ「にこぉ…」

真姫「…これ、どうするのよ」

にこ「…そろそろ帰ってご飯作らないといけないし…」


時間もないということで、周りのお客さんにメダルを配って、私とにこちゃんは帰路に着いた。
100:2016/01/22(金) 18:09:46.83 ID:
にこ「いやー、ここまでラッキーでいいのかって感じよねー」

真姫「しっぺ返しが怖いわね」

にこ「変なこと言わないでよ…じゃ、帰りましょ」


帰り道、植木鉢が落ちてくるとか、カラスに襲われるとか、そういったわかりやすい事が起こるわけでもなく。

無事ににこちゃんの家まで辿り着いた。


にこ「…真姫?」

真姫「…あっ? え、なに?」

にこ「元気ないけど、大丈夫? …もしかして、楽しくなかった?」

真姫「う、ううん。とっても楽しかったわ」

にこ「…そっか。今日はありがとね。またデート、しましょうね」

真姫「う゛えぇえ!?」

にこ「それじゃあねーっ」


手を振りながらアパートの階段を上っていくにこちゃん。


…デート、か。


女子高生二人で出かけたら、それはもうデートなのね…


…ってことは、私が希と今までしてきたことは…


…なんてスリル満点のデートなのかしら。
101:2016/01/22(金) 18:14:06.87 ID:
真姫「…なにこれ」


私の家の塀に、トラックがめり込んでいた。


まきママ「真姫ちゃん…おかえりなさい」

真姫「え、ええ…ただいま。…ねえ、ママ…これ…」

まきママ「あぁ…なんでも、運転手さんが突然気を失っちゃったみたいで…」

真姫「はぁ…?」

まきママ「幸い、私たちにも運転手さんにも、怪我はなかったんだけど…」

真姫「…」




部屋に戻り、荷物を放ってベッドに倒れこむ。


私はいつの間にか、夕食の時間まで眠ってしまっていた。
102:2016/01/22(金) 18:17:57.19 ID:
…リビングに向かうと、珍しくパパがテレビを見ていた。


真姫「パパ、この時間にテレビなんて珍しいわね」

まきパパ「ん? ああ、まあな…」

真姫「何か面白い番組でもやっていたの?」

まきパパ「…今日の秋葉原は物騒だったみたいで気になったんだ」

真姫「え?」

まきパパ「真姫が無事でよかったよ」


『…午後3時頃、ラブデパート秋葉原店に押し入った強盗は、未だに立てこもったまま―――』


真姫「…」


ここ、にこちゃんが福引きを当てたお店だわ。

ぞくりとしたものが背中をよぎる。


真姫「…まさか」



『えー、臨時ニュースです。先程、秋葉原のゲームセンターにて、ゲームがショート。発火するという事故が―――』


真姫「…っ!」


『いやー、今日の秋葉原は大変でしたねぇ。映画館で若者が突然暴れ出した、なんて話もありましたから―――』



…ゲームセンターも、映画館も…私とにこちゃんが訪れた場所だわ。


…私の家も、にこちゃんと待ち合わせた場所。




…これは、偶然なんかじゃなくて…


にこちゃんの幸運に対する、しっぺ返しだとしたら―――――
103:2016/01/22(金) 18:19:41.67 ID:
急いでご飯を食べた後、部屋に駆け込んだ私は真っ先にスマホで、希に連絡を――――


…いや。


せっかくご両親と久しぶりに会うんだから、邪魔しちゃいけないわよね。

私がなんとかしないと。






妖怪大百科。


凛の事件の頃だったかしら。

図書館から借りてきた本。

読んでいて面白いし、怪異退治の参考にもなるかと思って…結局買ってしまった。


…あ。


ペラペラとページをめくっていると、少し気になるページがあった。


真姫「…座敷わらし」
104:2016/01/22(金) 18:29:29.45 ID:
にこちゃんに電話を掛ける。


がちゃ。



真姫「もしもし、にこちゃん? 今から…」

にこ『にっこにっこにー♪ あなたのハートにラブにこ♡ 矢澤にこでぇ~すっ! いま~ぁ、電話に出られませぇん! ご用の方は、発信音のあとに、にっこにっ』


ぶつっ。


…もうっ!

こうなったら直接…


真姫パパ「どこに行くんだ?」


…と思ったものの、パパに見つかった。


真姫「…ちょっと、友達のところに教科書を」

真姫パパ「また外で何か起こるかもしれない。家に居なさい」

真姫「…はい」


家から出ることは叶わなかった。
105:2016/01/22(金) 18:32:24.83 ID:
…あの後、30分置きににこちゃんに電話をかけたものの、電話が取られることはなかった。

面倒くさい女だとでも思われたかしら。

…そうだ。

私が動けないなら、代わりに誰かに動いてもらえばいいじゃない!

凛なら、怪異に関しての記憶もあるし。


凛『もしもし?』

真姫「凛! 今うちに来れる!?」

凛『行けなくはないけど…どうしたの?』

真姫「にこちゃんに妖怪が憑りついてるの!」

凛『ええっ!? 今度はにこちゃん!?』

真姫「そうよ! 詳しくは私の家で話すわ。待ってるから、早く来て!」

凛『わかった、今から行…』

凛ママ『凛! どこ行くの!』

凛『あっ、お、お母さん!? ち、ちょっと真姫ちゃんの家に』

凛ママ『テストの点数悪かったから、今週末は外出禁止って言ったっしょ!』

凛『うっ…』

真姫「…」

凛『…ご、ごめん、真姫ちゃん…凛は力になれないみたいにゃ…』

真姫「…わかったわ、大丈夫よ」



…どうしましょ。

あ、そうだわ。

ことりなら、セイレーンに憑りつかれたときの記憶が残ってたし…

でも、来てくれるかしら。


ことり『…ん~、ちょっと難しいかも…ごめんね、真姫ちゃん』

真姫「ま、そうよね…大丈夫よ。無理言ってごめんなさい」


親が先生のことりじゃ、厳しいわよね…


あとは夜に外出できそうで、怪異に関係してて…
106:2016/01/22(金) 18:34:06.79 ID:
穂乃果『今から? うんっ、いいよ!』


さすがリーダーね。

穂乃果は吸血鬼騒動のことは忘れてるはずだけど…この際、仕方ないわ。



真姫「いらっしゃい、穂乃果」

穂乃果「お邪魔しまー…もごもご」

真姫「しーっ…バレないようにして」

穂乃果「…もごっご」


穂乃果の口を塞ぎ、靴を持たせて私の部屋に連行した。



真姫「ふぅ…」

穂乃果「ふぅ!」

真姫「…来てくれてありがとう、穂乃果」

穂乃果「ううんっ、大丈夫! …それで、どうしたの、真姫ちゃん? こんな時間に」

真姫「…穂乃果、あなたに話しておかないといけないことがあるの」

穂乃果「話しておかないと、いけないこと…?」




穂乃果「…ほえぇ」


私は穂乃果に、今までのこと――穂乃果の吸血鬼騒動からことりのセイレーンの件まで――を話した。

途中難しい顔をしながらも、最後まで黙って聞いてくれた。


穂乃果「そうだったんだ…穂乃果、吸血鬼だったんだ…」

真姫「もう処置はしたから、吸血鬼「だった」だけね」

穂乃果「そっかぁ…じゃあ、朝日が眩しかったのも、運動神経が良かったのも、夜にテンション上がったのも、気のせいじゃなかったんだ…」

真姫「…さて、それで…あなたにお願いしたいのは」


今の今まで忘れていた、例の切り札を取り出す。


真姫「…これで、にこちゃんを撃ち抜く事よ」
107:2016/01/22(金) 18:35:04.81 ID:
穂乃果「…うえぇえっ!?」

真姫「大げさね…そんなに驚くこと?」

穂乃果「おっぉ、驚くよ! にこちゃんを撃ち殺しちゃうってことでしょっ!?」

真姫「…あ」


そういえば、ドリームトリガーのことは詳しく説明していなかったわね。


真姫「大丈夫よ、これは妖怪とか、怪異とか…そういう類のものしか撃ち抜けないの」

穂乃果「…本当に?」

真姫「本当よ。ほら、行くわよ」

穂乃果「ひぃっ!」


穂乃果に銃口を向ける。

穂乃果は世界の終わりを迎えたような顔で怯えている。


穂乃果「な、なんでもするから…真姫ちゃん、お願い…殺さないで…」
108:2016/01/22(金) 18:35:37.96 ID:
真姫「…何言ってんのよ」


どきゅーん。


穂乃果「うぅ…穂乃果死んだんだ…真姫ちゃんに殺されちゃったんだ…」

真姫「だから殺してないってば」

穂乃果「…あれ?」


ぺたぺたと自分の身体を触る穂乃果。何事もないことに気づき、ほっと息をつく。


穂乃果「ほんとに何も起こってない…で、でも、真姫ちゃんが外したって可能性も…」

真姫「あのね…さすがに、この至近距離なら外さないわよ。…ほら、見てなさい」


仕方がないので、自分のこめかみに銃口を当て、引き金を引く。


どきゅーん。


真姫「…ほら、なんともない」

穂乃果「ほんとだ…」

真姫「まったく…」

穂乃果「…それで、にこちゃんは何に憑りつかれてるの?」

真姫「…たぶん、座敷わらしよ」

穂乃果「座敷わらし…?」
109:2016/01/22(金) 18:41:30.56 ID:
~まきちゃん講座 座敷わらし編~

希不在の今、私が座敷わらしについて解説するわ。

・座敷や蔵に住む神様のようなもの
・家の人にイタズラしたりする
・見かけたら幸運が訪れる、富をもたらす
・大人には見えないことも多い

…と、特徴については、簡単にこんなところかしら。

獣や武士、なんて説もあるみたいだけれど、基本的には子供っていうイメージよね。

年齢は3歳から15歳くらいまでだったり、男の子と女の子の姿がどっちも存在していたり、容姿も結構幅広いわ。

…15歳くらいの女の子の姿って言ったら、にこちゃんにも合致しているわよね。…あ、ごめんなさい。17歳だったわね。


次に、幸運とか、そういうことに関しての記述よ。

・座敷わらしの居る家は栄え、去った家は衰退する

これに関しては、多数ある説の中でも共通していることね。
座敷わらしの去った家が、一家そろって食中毒で死んでしまった話。
資産家の子供が弓矢で射てしまって座敷わらしが去った結果、家運が傾いた話。いろいろあるわ。


・白い座敷わらしは吉事の前触れ、赤い座敷わらしは凶事の前触れ


赤い座敷わらしは、家を去る前兆…ってことらしいんだけど。

…多分、これはにこちゃんの服に関係してるんじゃないかしら。


『最近は清楚系を目指して白い服ばっかりだったんだけど、今日は真姫ちゃんを意識して赤い服にしてみたのよ』


…だから、赤い服を着たにこちゃんが去った場所…

私の家、デパート、映画館、ゲームセンター…それぞれの場所で、凶事が起こった。

…ただ引っかかるのは、にこちゃんの家に何も起きていないこと。

それと、にこちゃんの周りじゃなくて、にこちゃん自身が幸運になっていることね。

…まあ、前にもこういう、特徴と完全一致してない、なんてことはあったし。

今回もそういうことなんでしょう…ということにしておくわ。


希は対策法とか教えてくれていたけれど、私は紹介できないわ。

座敷わらしに関しては、それが存在していないみたいなの。むしろ、退治するなとまで書かれているわ。

…まあ、本来退治すべき妖怪ではないものね。

…曖昧な表現ばっかりで悪かったわね。私は専門家じゃないもの。

…というわけで、まきちゃん講座は閉校よ。
110:2016/01/22(金) 18:48:05.93 ID:
真姫「じゃあ、お願いね」

穂乃果「うんっ、任せて! にこちゃんは私が救ってくるよ!」


笑顔で手を振って、凛ほどではないにしろすごいスピードで走り去っていく穂乃果。


…さて、お菓子でも用意しておこうかしら。




15分くらいして、とぼとぼと穂乃果が帰ってきた。


真姫「もしかして…駄目だったの?」

穂乃果「うん…チャイム鳴らしても誰も出ないし」

真姫「ご飯でも食べに行ってるのかしら…」

穂乃果「たぶん…」

真姫「…仕方ないわね。ありがとう、穂乃果」

穂乃果「ううん、穂乃果何もできなかったし…」

真姫「…穂乃果、ケーキ食べる?」

穂乃果「ケーキっ!?」

真姫「…お礼よ」

穂乃果「お礼って…私、何もできなかったし…」

真姫「…夜にわざわざ来てくれたから。こんな時ばっかり気を遣うんじゃないわよ」

穂乃果「…うんっ! 真姫ちゃん、ありがとー!」

真姫「う゛えぇ…」


まるで犬みたいにくっついてくる穂乃果。


…ま、たまには、こういうのもいいでしょ。
111:2016/01/22(金) 18:51:11.25 ID:
穂乃果「美味しぃ~っ!」

真姫「みんなには秘密よ」

穂乃果「わかってるって! …えっと、真姫ちゃん。これからどうするの?」

真姫「…そうね。いつ帰ってくるかもわからないし、明日の朝一を攻めるわ」

穂乃果「そっかぁ…あ、真姫ちゃん、あのさ…」


こんこん。


まきパパ「真姫、少しいいか」


ドアがノックされる。

やば…!


真姫「穂乃果、隠れなさい!」

穂乃果「えっ!? ど、どこに…」

真姫「あー…もうっ! ベッドでいいから!」


ぐいぐいと穂乃果をベッドに押し込む。


穂乃果「もごご…」



真姫「な、なにパパ?」

まきパパ「ああ、来週末の件なんだが」
112:2016/01/22(金) 21:04:20.18 ID:
まったく、パパってば話が長いのよ。

来週末、偉い人が集まるパーティーがあるから、一緒に来いっていう話だった。

興味ないって言ったんだけど、将来の為にもなるだろうから、って。

まあ…将来の為と思えば。それに、私の知ってる人も来るみたい。

…私の知り合いに、そんな人いた?


って、穂乃果は大丈夫かしら。もう30分もほっといてあるけど、あの人はじっとしているのが嫌いな人間だし…


真姫「穂乃果、待たせてごめんなさ…」

穂乃果「すぅ…すぅ…」


穂乃果は私のベッドで、とても気持ちよさそうに寝息をたてて寝ていた。


真姫「…あ、もしもし、雪穂ちゃん? …私、真姫よ。…あなたのお姉さん、私の部屋で寝ているから…今晩は泊まっていくって伝えておいて」



…やれやれね。

私もお風呂に入って寝ましょ。
113:2016/01/22(金) 21:06:36.18 ID:
「…ちゃん」


…ん、誰よ…


「…きちゃん、まきちゃん」


…何?


「真姫ちゃん! 早く起きて!」


…うるさいわね…


「っていうか早く離してよ! 苦しいよぉっ!」


真姫「…穂乃果?」


穂乃果「そう、穂乃果だよっ! 抱き枕じゃないよ!」

真姫「なによ、穂乃果…朝からうるさいわね。バレたらどうするのよ…」

穂乃果「そんなこと言ってる場合じゃないよぉっ! にこちゃんが大変だよっ!」

にこ「…にこちゃんが?」

穂乃果「ケータイ見てっ!」


穂乃果に言われて、携帯を開く。

μ`sのグループトークに送信された、にこちゃんからのメッセージ。

彼女にしては顔文字も絵文字も記号も無い、珍しいものだった。



『だれでもいいからたすえて』
114:2016/01/22(金) 21:15:20.75 ID:
…何かあったんだわ。


大急ぎでにこちゃんに電話をかける。

今日はちゃんと出なさいよね…


にこ『もっ、もしもしぃっ!』

真姫「にこちゃん!? 今どこ!?」

にこ『まっ、まき!? いっ、いまっ、でんしゃのほーむにっ…むかうところでっ…はぁっ、はぁっ…』

真姫「ホーム? 秋葉原駅ね!?」

にこ「そっ、そうっ、5番ホームっ」

真姫「…わかったわ、今行く! …そうだわ! にこちゃん、今日何着てる!?」

にこ『なっ、なによ突然っ…』

真姫「いいからっ!」

にこ『き、昨日真姫に選んでもらった赤い…』

真姫「あぁ…」

穂乃果「真姫ちゃん!」


くらっ。


思わずベッドに突っ伏す。

うかつだった…

何が起こっているのかはわからないけれど、間違いなくにこちゃんの身が危ない。

無理やりにでも探し出して、にこちゃんに弾丸を撃ちこむべきだった。


真姫「にこちゃん、何が起こってるのかわからないけれど、今すぐ助けに行くから。なんとか無事でいて」

にこ「わ、わかっ…きゃぁっ!」


がしゃぁん!


真姫「っ…」


耳元で大きな破裂音が聞こえる。


画面を見ると、通話は切れてしまっていた。
115:2016/01/22(金) 21:19:23.39 ID:
秋葉原の街は、いつもとは比較にならないほど混沌としていた。

物はたくさん落ちてるし、道路は事故を起こした車がたくさん止まってる。

歩道がえぐれてるところまである。


…これ、きっとにこちゃんが歩いた証拠よね。


穂乃果「アキバが大変なことに…」

真姫「…私たちも、気を付けて進まないと…っ!?」


すてーん。


私は何かを踏んで転んでしまった。

バナナの皮。


穂乃果「ぷっ…」

真姫「笑わないで!」


…にこちゃん、許さないわよ…
116:2016/01/22(金) 21:20:47.18 ID:
あの後も何回か転んだり倒れたりぶつかったり…とにかく、色々あったものの、なんとか秋葉原駅に到着した。



真姫「…さ、穂乃果。切符を買って」

穂乃果「…えぇっ!? 穂乃果が買うの!? っていうか切符なの?」

真姫「お金は私が出…って、え? 切符じゃないの?」

穂乃果「スイカ使わないの?」

真姫「西瓜?」

穂乃果「…」



真姫「…悪かったわね」


穂乃果にレクチャーされながら『SUICA』を買って、駅のホームへのエスカレーターを駆け上っていた。


穂乃果「あはは…で、でも、これでもう電車に乗れ…うぇぇぇええ!?」

真姫「何よ、変な声出して…う゛えぇえっ!?」


私たちが5番ホームで見たものは、惨状だった。

元々あった場所から5メートルは移動している自動販売機。

ホームのあちこちに落ちている、コンビニの商品。

半分地面に突き刺さっている電光掲示板。


そして、砕けたにこちゃんのスマホの破片。



真姫「なによこれ…」

穂乃果「…まさか、にこちゃんが通ったから…?」



にこ「いやああああああああああああああっ!!!」
117:2016/01/22(金) 21:30:54.75 ID:
真姫「にこちゃんっ!?」


どこからか、にこちゃんの叫び声が聞こえた。


にこ「たすけてえええええええええええっ!!!!!」


真姫「…にこちゃん!」


よく見ると、大泣きしながらホームを走り回るにこちゃんの姿が見えた。

まるでにこちゃんを殺そうとしているかのごとく、にこちゃんが通った所に色んな物が突き刺さる。


真姫「にこちゃん! 今そっちに…」

穂乃果「まっ、真姫ちゃん、上…!」

真姫「上?」


穂乃果の指差す、反対側のホーム…の、少し上を見る。


電車が宙に浮いていた。


真姫「…は、はぁ…!?」


自分の目が信じられず、何度も瞬きをする。


が、状況は変わらない。



穂乃果「真姫ちゃん! あの銃は!?」

真姫「そうだわ…っ」


穂乃果に言われて思い出し、ドリームトリガーを取り出す。


動き回るにこちゃんに狙いを定め、引き金を引く。


…けれど弾丸は、にこちゃんからはほど遠い自販機に当たる。



穂乃果「真姫ちゃんのヘタクソ!」

真姫「し、しょうがないじゃないっ!」
118:2016/01/22(金) 21:53:05.95 ID:
細かいことで言い合いしていると、浮いている電車が動き始めた。


…にこちゃん目がけて。


真姫「ま、まずいわ!」

穂乃果「貸してっ!」

真姫「撃てるの!?」

穂乃果「ゲーセンで何回かやったことあるからっ!」


穂乃果にドリームトリガーをぶん取られる。

綺麗な構えで、階段を降りようとしているにこちゃんを狙う。

そして、引き金を引く。


放たれた弾丸はにこちゃんから少し外れ、にこちゃんに激突寸前だった電車に当たる。


穂乃果「惜しい…っ!?」


がしゃあああああああああああん!



弾丸の当たった電車は、今まで宙に浮いていたのが嘘のように重力に引っ張られ、ホームに不時着する。


真姫「…電車が本体だったのかしら」

穂乃果「でも、まだ色々動いてるよ」


穂乃果の言う通り、反対側のホームでは色んな物が、にこちゃんを探してふよふよ浮いていた。


真姫「…あっ、そうか」

穂乃果「?」

真姫「…あなたに噛まれて昏睡してた皆を助けられたんだから、さっきの電車を止められてもおかしくないわよね」

穂乃果「…??」

真姫「…だから、"怪異が周りに与えた悪い影響"にも、これの効果はあるってことなのよ」

穂乃果「ってことは、にこちゃんに当たらなくてもいいってこと?」

真姫「最終的には当てなきゃいけないんでしょうけど…にこちゃんを襲ってる物に当てれば一時しのぎにはなるわね
119:2016/01/22(金) 22:14:36.13 ID:
穂乃果「…ねえ、真姫ちゃん」


ホームを降りたにこちゃんを追いかけていると、穂乃果が話しかけてくる。


真姫「なによ?」

穂乃果「座敷わらしがいなくなった場所に、悪いことがおきるんだよね」

真姫「ええ、そのはずよ」

穂乃果「…でも、なんでにこちゃんが通った場所だけなのかな」

真姫「え? だから、にこちゃんがいなくなったから…」

穂乃果「ううん、そうじゃなくて…悪いことが起こってるの、にこちゃんが"居た"場所じゃなくて、にこちゃんが"通った"場所だよね?」

真姫「…あぁ」


穂乃果が何を言いたいのかわかった。

たしかにそうだわ。

座敷わらしが去った後に不幸が訪れるのは、「去った場所」であって「通った道」じゃない。

少なくとも昨日はそうだった。

デパート、ゲームセンター、映画館、私の家。

デパートだって、屋上に立ち入ったわけではない。

壊れたうちの塀も、にこちゃんと通ったのとは反対側の方が壊れた。


不幸が起きる範囲が狭くなっている。


そして、不幸が起こるタイムラグも、確実に短くなっている。


昨日は、数時間経ってから何かが起こっていた。

でも、今日はどう?


直接、今すぐにでも、にこちゃんを不幸の底…いえ、地獄にでも叩き落とそうとしているかのよう。
120:2016/01/22(金) 22:17:33.81 ID:
ぷるるるる。

…希から着信。


希『もしもし、真姫ちゃん!? 大丈夫なん!?』

真姫「え、ええ…私は大丈夫よ」

希『さっき、ニュースでアキバが大変なことになってるって知って…』

真姫「ああ、それで…」

希『アキバに戻ろうにも、今の惨状だと交通機関は使えないみたいやし』

真姫「…大丈夫よ、こっちでなんとかするわ」

希『…今回は誰が?』

真姫「…たぶん、にこちゃんが」



にこちゃんの後を追いつつ、希に今回の出来事を簡潔に話した。


ここ最近のにこちゃんの幸運のこと。

昨日被害に遭った場所は、全てにこちゃんが訪れた場所だってこと。

今日のにこちゃんのことと、それを追う私たちのこと。

そして、さっき穂乃果のおかげで気づいた、不幸が起こるタイムラグと範囲が狭まっていること。


希『…真姫ちゃん』

真姫「?」

希『…今のにこっちが危険に晒されてるのは、座敷わらしのせいやない』

真姫「…じゃあ、私の推測は間違ってたってこと?」

希『いや…元々は座敷わらしのせいやった…って言えばいいのかな』

真姫「…?」

希『今にこっちを狙ってるんは、新種の怪異や』

真姫「新種…?」

希『たぶん、そうやと思う。前回よりも判断条件は圧倒的に多いけど、当てはまる怪異はおらん』

真姫「…」

希『…真姫ちゃん、早くにこっちをなんとかしないとマズイで。今の状態を一言で言えば』


希『にこっちが生きるか死ぬかは、全てにこっちに懸かっている』
121:2016/01/22(金) 22:47:13.75 ID:
真姫「…どういうことよ?」


希『…順を追って説明すると…最初、にこっちに座敷わらしが憑いてたのは間違いない。

はじめのうちは、他の人にも幸運が分け与えられていたやろ?

例えば、花陽ちゃんのチケット。絵里ちとデートの時。…あとは、うちもそうなるのかな。

探してるウォークマンを、最初に連絡したにこっちがピンポイントで持っていた。

…でも、だんだんその幸運は、にこっち一人に向いていった』


真姫「…たしかに、私と出かけた時はそうだったわね。私に得になることはほぼなかったわ」


希『それはきっと、にこっちが望んだことなんよ。

自分が他人に幸福を分け与えている、ってわかったにこっちは…それならもうちょっとだけ、自分も幸運になりたいなって。

その結果、周りに与えていた幸福が、全部自分に向いた』


真姫「…自己中心的、なのかしら」


希『ううん、人間ならみんなそうだと思う。周りのみんなが幸せなら、自分も幸せ…なんて言うけれど、どこか心の底で…

自分にもいいこと起こらないかな…なんて、考えてしまうものやから』


真姫「…」


希『…で、運を自分に引き込んだにこっち。…そこまではよかったんよ。でも、いけなかったのは二つ。

"赤い服を着てしまったこと" と、"何か幸運の報いがやってくるんじゃないかと考えてしまったこと"』


真姫「…赤い服は、座敷わらしの特徴のことでいいのよね」


希『うん。赤い服を身に纏った座敷わらしっていうのは、その家から去る前兆。

にこっちが座敷わらし化していたわけやから、赤い服を着たってことは…幸運の終わり』
122:2016/01/22(金) 22:58:34.83 ID:
穂乃果「でも、座敷わらしが居なくなった後って、不幸がやってくるんだよね?」


希『そう。…でも、人が死ぬことはあるにしろ…さすがに、死ぬまで不幸に貶め続けるなんてことはせーへんよ。

ある程度大きな凶事があって、そこで座敷わらしの効果は終わり。凶事で死んでしまったらそれまでやし、死ななければそれもそれ』


穂乃果「…?」


希『あはは、ちょっと難しくなっちゃったね。

…にこっちは多分、心のどこかで思ってしまったんやろね。「幸せの代償として、そのうち死んでしまうんじゃないか」ってね。

…そういう思いを、にこっちから出ていく座敷わらしが汲み取ってしまった』


真姫「そんなことがあるの?」


希『普通はないよ。…でも、にこっちの性格を思い出してみて』


真姫「にこちゃんの性格…?」

穂乃果「いじわる?」

真姫「不器用」

穂乃果「お姉さん…」

真姫「イタい」

穂乃果「あとは…かわいい!」

真姫「思い込みが激しい」


希『ほぼ悪口やん…』


真姫「だ、だって…」


希『でも、正解が出たね。"思い込みが激しい"。

にこっちは、本来の自分とは別に "にこにー" っていうアイドル像を作り上げている。

その"想像"力と"創造"力が、新しい怪異を生み出した…』


真姫「…つまり、現在進行形でにこちゃんが怪異の設定を作ってるわけね」


希『そうなるね。やから、"この現象はいつか止まって、なんとか自分は生き延びる"…と思えていれば、生き延びることができる。

ただし、"この現象は、自分が死ぬまで止まらない"…と思ってしまったら、にこっちは…』
124:2016/01/22(金) 23:55:57.49 ID:
真姫「…だいたいわかったわ」


希『逃げてる今のうちはまだ大丈夫…にこっちの体力が切れたら、そこからはにこっちの精神状態に懸かる。

とにかく、ドリームトリガーを使わなくても…にこっちを説得できれば、一応はなんとかなる。にこっち、スマホは…』


穂乃果「壊れちゃってた…」

希『…じゃあ、自分の足で追いつくしかないか』

真姫「…この惨状じゃ、車も使えそうにないし…」


辺りを見回す。

いつの間にか、駅からかなり遠いところまで来てしまった。

でも、にこちゃんにはまだ追いつけない。


穂乃果「…あっ、真姫ちゃん!」

真姫「と、突然大きな声を出さないでよ」


穂乃果がガレキの山から、何かを見つけてきた。



穂乃果「…どうかな!」

真姫「…自転車?」

穂乃果「穂乃果、自転車には自信あるよ!」
125:2016/01/22(金) 23:57:03.90 ID:
真姫「いやああああああああああああああっ!!!」

穂乃果「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」


穂乃果は全力で自転車を漕いだ。

私は振り落とされないように全力で穂乃果に掴まった。

スカートやら髪の毛やら、もうぐちゃぐちゃだった。


穂乃果「…真姫ちゃん、見えたっ!」

真姫「なっ、何見てんのよ! 穂乃果のヘンタイ!」

穂乃果「そ、そうじゃなくてっ! にこちゃんが!」

真姫「えっ!?」


穂乃果の目線を追うと、たしかに黒いツインテールが揺れているのが見えた。


真姫「…でも、障害物が邪魔で近づけそうにないわよ!」


にこちゃんを今にも殺そうと、道路の標識やらガラスの破片やらが宙を飛んでいる。



穂乃果「…真姫ちゃん、頼んだよ! 穂乃果、トバすからね!」

真姫「えぇっ!? む、無理よそんなのっ…」

穂乃果「できるっ!!」

真姫「い、いみわかんなぁいっ!!!」



左手にこれ以上ないくらい力を入れて穂乃果にしがみつき、揺れに揺れる右手でドリームトリガーを構える。


穂乃果「できるだけ避けて走るけど、ぶつかりそうなものは撃ち落としてね!」

真姫「無茶言わないでよぉっ!!」


意外にも、私の放った弾丸は全て障害物に当たり、綺麗に片付けてしまった。

数撃ちゃ当たる、なんてことわざは、意外と間違っていないのかもしれない。
126:2016/01/23(土) 00:14:16.76 ID:
穂乃果「…壊れた道は、ここで止まってるね」

真姫「…ええ」


抉れたり落ちていたり刺さっていたりした道は、とあるビルの前でぴたりと崩壊を止めていた。


街の外れにある、廃墟と化したビル。


ごごご、と音を立て、少し揺れている。



真姫「ここで間違いないみたいね」

穂乃果「うん…」

真姫「…よくここまで一人で逃げてきたわね」


ここまで通ってきた道を振り返る。


女子高生が一人で進んでくるには、到底無茶な道だ。


…いや、二人でも相当無茶だったけど。



穂乃果「ビルが崩れちゃう前になんとかしないと…」

真姫「ええ…」



半開きになったままの自動ドアをくぐり、私と穂乃果はビルに入る。



ビルに入って最初に目につく、大きな女性の銅像。

その下にちょこんと座っているのは、私たちがずっと追ってきた少女。


真姫「…にこちゃん」
127:2016/01/23(土) 00:16:52.22 ID:
にこ「…まき…?」


にこちゃんはボロボロだった。

いつも目印のツインテールは片方ほどけ、綺麗に整えられている髪もボサボサになってしまっている。

膝にはすりむいた痕がいくつもあり、昨日買ったばかりの赤い服も傷だらけ。


私の声に気づき、虚ろな目でこちらを見上げるにこちゃん。


穂乃果「にこちゃん、大丈夫!?」

にこ「穂乃果…真姫……ほんとうに、助けに来てくれたんだ…」

真姫「当たり前でしょ!」

穂乃果「にこちゃん、今助けるから…うわぁっ!」



ぐらり。


大きくビルが揺れる。

二階の床が少し崩れ、私たちとにこちゃんの間に壁を作るかのように降ってくる。



にこ「来ないで!」


にこちゃんが叫ぶ。

私たちはそれに怯み、一瞬動きが止まってしまう。


穂乃果「なんで!?」

にこ「なんでじゃないわよ…私なんて見捨てて、早く逃げなさい。もう私は限界。動けやしないわ」

真姫「そんなことできるわけないでしょう!?」

にこ「いいからっ! …にこはここで死ぬのよ。十分幸せな思いをしたんだから、これはその報いなのよ」

真姫「違うわ! にこちゃん、そんなこと考えちゃダメ!」

にこ「違わないわよっ! …ねえ、穂乃果」

穂乃果「な、なに…?」
128:2016/01/23(土) 00:19:28.50 ID:
にこ「…あんたは後先考えないで行動するバカだったけど…私、そんなあんたのこと…憧れてた…」

穂乃果「なっ…」

にこ「穂乃果…μ`sに入れてくれて…ありがとう…」

穂乃果「にっ…こ…ちゃ…う、うぅっ…!」


にこちゃんは目に涙を浮かべて語り掛けてくる。

穂乃果まで泣き崩れてしまう。


にこ「真姫」

真姫「…聞きたくない」

にこ「…あんたは、素直じゃなかったけど…あんたの作る歌は、とっても素直で…」

真姫「馬鹿…」


砂埃と涙で、前がよく見えない。

ドリームトリガーを構えても、照準を合わせられない。


にこ「…真姫、楽しかったわよ」

真姫「バカっ…」

にこ「そうだ…こころ、ここあ、虎太郎、ママ…みんなにも、よろしく言っておいて…」
129:2016/01/23(土) 00:21:58.35 ID:
穂乃果「やっぱり駄目だよっ、こんなっ…うわぁあっ!」

真姫「やぁっ…!」


ごごごごご。


ビルの揺れはさらに強くなる。

体勢を崩してしまい、ドリームトリガーを手放してしまう。


真姫「あ…ッ!」

にこ「ほら、早く逃げなさいよ。よくわかんないけど、世界は私を狙ってんのよ? きっと私が死ねば平和になるわ」

穂乃果「そんなのっ!」

にこ「ダメだって言ってんでしょ…」



…。



…そうか。



…わかった。



この状況の打開策。



悲鳴をあげているかのように、ビルが崩れる音が大きくなる。



穂乃果「…真姫ちゃん、逃げてよ。私、残る」

真姫「…」



穂乃果「ま、真姫ちゃんっ! 危な…」


にこ「…真姫、穂乃果…今まで、楽し…」



にこちゃんの言葉を、私の平手で遮った。


倒壊音が収まったビルに、乾いた音が響く。
130:2016/01/23(土) 00:24:10.20 ID:
私がにこちゃんの目の前に辿り着くのは容易だった。


私が歩いている間は、揺れも瓦礫も、ぴたりと止まったから。



真姫「酔ってるんじゃないわよ…」

にこ「…真姫…?」

真姫「自分に酔ってるんじゃないわよ、にこちゃん…あなたの言うべき台詞はそうじゃないでしょ…?」

にこ「…」


真姫「そっくりよね、今。…あの映画と」


にこ「っ…!」


真姫「言いなさいよ…あなたは今状況に酔ってるだけで、本当はこんなところで死にたくないんでしょ!?」


真姫「あなたが言わなきゃならないのは、あのダッサい男が言えなかった、あの台詞よっ!!」


にこ「…」


真姫「私はにこちゃんが死んでも、これから先の壁を乗り越えていく、壊していくなんて無理よ! だから言いなさいっ!」



にこ「た…」



にこ「助けて…」



真姫「…それでいいのよ」



今までの揺れが嘘だったかのように、ビルの倒壊は止まっていた。
131:2016/01/23(土) 00:31:56.61 ID:
そのあと、ドリームトリガーで除霊(?)されたにこちゃんは、私と穂乃果の手で矢澤家まで送り届けられた。

…にこちゃんに座敷わらしが憑りついたのは、だいたい穂乃果が吸血鬼になったころで間違いないと思う。

にこちゃんのお母さんに話を聞いてみたら、こころちゃんたちが学校で賞を取ってきたり、お母さんの仕事が上手くいったりし始めた時期があったらしい。

それが、ちょうどあの頃だったというわけ。



…で。あれだけ街がボロボロになってしまったわけで、流石に学校も休校になった。

どの家でも外出禁止令が敷かれ、μ`sのメンバーと顔を合わせるのは事件から一週間ほど後の月曜日となった。


にこ「…おはよ」

真姫「…おはよう」


私が家を出て最初に顔を見たのは、にこちゃんだった。


真姫「…なに、待ってたの?」

にこ「…うん」

真姫「どうして…」

にこ「…ちゃんとお礼、言えてなかったから」

真姫「…そんな、別にいいのに」

にこ「…真姫、ありがとう…あんたが居なかったら、私…」

真姫「だから、いいってば。そんなことより、今日からまた元気にやっていきましょ」

にこ「…うん」

真姫「よしよし」


妙にしおらしいにこちゃんの頭を撫でてあげる。


にこ「…ん」


馬鹿にするなー、なんて怒鳴られるかと思いきや、にこちゃんは少し頬を赤らめて、満足そうに笑うだけだった。

…よくわからない。



「お、なんやなんや、にこまき熱愛発覚か~?」


…にこちゃんを撫でていると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

振り向くと、"両手"をパーにして、ニヤニヤ笑う顔を隠す希の姿があった。
132:2016/01/23(土) 00:33:25.04 ID:
真姫「…希!」

希「や、おはよ、真姫ちゃん。にこっち~」

にこ「…おはよ」

真姫「あなた、腕はもういいの…!?」


いつの間にやら、希の腕からはギブスが取れていた。


希「うん、なんか予定よりも早く治ったみたいで。毎日牛乳飲んでたおかげなんかな?」


得意げに腕を回す希。


ぼいーん。


…そんな効果音が似合うかしら。



にこ「…牛乳の量が足りないのかしら」

真姫「…にこちゃんはそのままで十分よ」

にこ「…ん」


落ち込むにこちゃんを励ましておく。


希「くすくす♡ さ、今日も張り切っていこか! うちの腕も治ったことやし、μ`s復活や!」


そう笑顔で言い放ち、私たちの肩を叩いて歩き出す希。


にこ「…そうね。μ`s再興の日なんだから、張り切っていかないとね!」

真姫「ええ!」
133:2016/01/23(土) 00:34:32.34 ID:
部活が始まる前、更衣室での会話。


希「…真姫ちゃん、今回は本当にありがとな」

真姫「…別に、私は」

希「うちのこと気遣って、連絡してこなかったんやろ?」

真姫「…結局、手伝ってもらっちゃったけど」

希「ううん、ええんよ。…真姫ちゃん、もうすっかり一人前やね」

真姫「そう? 私ひとりじゃ何にもできなかったわよ。希の推理と、穂乃果の体力があってこそ解決できたのよ」

希「ひとりだけじゃ何もできないんは、うちも同じや」

真姫「…」

希「…今回だって、真姫ちゃんが居なかったら、にこっちは…」

真姫「…ふんっ」


でこぴん。


希「あいたっ…」

真姫「…ほら、みんな待ってるから。早く行きましょ」

希「…うん」
134:2016/01/23(土) 00:35:45.49 ID:
凛「久しぶりの練習、楽しみにゃーっ!」

ことり「ことりも、なんだかウキウキしてきちゃった!」

希「うちも楽しみーっ!」

絵里「無理しちゃだめよ、希」

希「わかってるって。絵里ちはカタいなぁ」

穂乃果「いたたたた…」

海未「まだ治らないのですか?」

穂乃果「う、うん…ちょっとね…」

真姫「ごめん穂乃果…」

穂乃果「だ、だいじょぶだよ、真姫ちゃん…」

花陽「真姫ちゃんと穂乃果ちゃん、何かあったの?」

真姫「べっ、別に何も…」

穂乃果「ほ、ほら。真姫ちゃんから健康器具を借りたんだよ! そしたら、やりすぎちゃって」

絵里「もう…いくら練習が無かったからって、張り切りすぎよ」

穂乃果「えへへ、ごめんなさぁい」


ばん。


屋上のドアが開く。


開いたドアの向こうで、二つ結いの髪が揺れる。


にこ「にっこにっこにー♡ …はぁ~ん、やっぱり、にこにーの可愛さは罪よねぇ~っ…♡」



…この人はまったく。


まったくもって反省していなかった。


自分に酔いまくりだった。


…でも。


それがにこちゃんの悪いところでもあるし、いいところでもあるからね。


…ま、いっか。
135:2016/01/23(土) 00:36:37.39 ID:
おわり



おまけ

長文でわかりづらいかと思って図解を作りましたが 余計わかりづらくなりました


136:2016/01/23(土) 00:39:19.76 ID:
チケット取れなかったショックでよく覚えてないのですが書き溜めが消えておりました
思い出しながら書いたので、ところどころガバガバだし説明わかりづらいしでもう最悪って感じですね
本当にすみませんでした
137:2016/01/23(土) 00:39:22.34 ID:
乙でした
絵かわいいな
138:2016/01/23(土) 00:56:31.24 ID:
作者があまり色々語るのはよくないとわかっているのですが、少しだけ失礼します




>>74で出たタイトルの話を少し

ほのかヴァンプ
ほしぞらキャット
ことりソング
やざワラシ

といった感じのタイトルはあるのですが、何が憑いてるか最初にわかっちゃうのもアレなのでスレタイは変えてあります
『真姫「 』 から始まり、カギカッコの中に三点リーダ『…』が入ってるというのが法則なので、よろしくお願いします

次回以降についてですが、絵里or花陽です
が、かよちんに何が憑くかというアイデアが全く思い浮かばないので時期未定です
140:2016/01/23(土) 05:48:46.91 ID:
乙です
次回作楽しみに待ってます
142:2016/01/23(土) 07:08:10.48 ID:
おつ
このシリーズすき